デビューして16年になるが、曲を提供していた時期も含めるともっと長い。「天職ですね」とよく言われるが正直そんなふうに思ったことは1度もない。元々歌には自信がなく、当時のスタッフにも「辛島サンは歌わない方がいいね」と言われていたのに、ひょんなことからCDデビューとなり現在に至っている。ラッキーに見えるだろうが、デビューが遅いうえに歌に対しての心と体の鍛錬ができてないからつらいことも多かった。ダンナさんのお給料で手堅く専業主婦、をいまだひそかな理想とする私は、ライブ前になると毎回不安になり、(会場が火事になってくれー)と心で念じている。
先日『マザー・テレサ』という映画を見た。説明するまでもなく、宗教の枠を超えて飢餓や病に苦しむ弱者を助け、生涯をインドにささげた女性である。まさに『天職』を全うした彼女に畏敬(いけい)の念を抱きつつ、でもちょっとねたましい。いいなぁ〜私も天職を悟って迷いのない人生を送りたいもんだ。すると友人は言う。「いいじゃない、迷う仕事があって。私なんか主婦と子育てで選択の余地なんかないもん」
マザー・テレサは36歳の時に神の啓示を受け87で世を去った。演じたオリビア・ハッセーは54。19歳で『ロミオとジュリエット』で脚光を浴びて35年、20年以上もこの役を望んでいたという。数字だけ見てもなんだか凡人のわれらとはスケールが違う。けれどひとつだけ勇気を与えられることがある。それは、『コツコツ歩む人』の美しさ。
異国でただひたむきに弱者を助けたマザー・テレサ、女優を続けるオリビア、子供を育てる母親、通勤電車のサラリーマン、工事現場の人、歌う私etc…。見え方は千差万別でもこの世の中は『コツコツ』やらなければ成り立たない仕事だらけ。
年に1度、母の日に子供からもらう『ありがとう』、一仕事終え仲間と飲む『お疲れさん』のビール、コンサートで出会う『笑顔』、『おはよう!』から始まる朝…。啓示より時間はかかるしパッとしないが、そんな小さな幸せの積み重ねも悪くない。もしかして、『天職』はこの雑多な日常にそっと紛れているものなのかもしれない。
晩年のマザー・テレサを演じるオリビアは、腰は曲がり、日に焼けた素肌はかさついているのに、くぼんだその瞳は優しく美しかった。この春96歳で亡くなった祖母の瞳と重なった。天職など考えず、コツコツ生きて最後まで命を全うすること、それが一番大切な『天命』なのだと気がついた。


















