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'06/01/10 夕刊掲載 
美登里のオフタイム

〜  16  〜

受験生の皆さんへ

朝学校へ行くとクラスの様子が変だ。キョトンとしてると友達がやってきて「あれ、知らんの? 今日試験だがね」。え〜っ! 慌てて歴史の年号や古文の訳を丸暗記するが、すぐにガラッと扉が開き無表情の数学の先生がやってきてテスト用紙を配り、私たちは条件反射の犬みたいにサッと教科書を机にしまい名前を書き始め、そこからは鉛筆の音と小さなせきくらいしか教室には響かない。あぁ、なんで前々から準備しなかったのだ。昨夜グーグー寝てしまったのだ。後悔と焦りにウワーッと崩壊しそうになって…夢から覚めた。

大学受験から20年以上たってもいまだに試験の夢を見る。コンサートで歌詞を忘れたり、幕が開くと客席は数人のお年寄りだけ…そんな悪夢の10倍くらい試験の夢でうなされる。「大学の掲示板を見ると『以下の者、留年を命ず』って、オレの名前が書かれているんだよォ」という夢を毎年定期的に見る、と男友達は言っていた。

学校によって差はあるだろうが文字通り受験『戦争』をくぐりぬけた人は多いと思う。『テスト』という逃げ場のない環境が苦しい。ぐっとつらさは軽減するが、自動車免許の試験すら苦手だった。自分はいつまでも問題が解けないのに、隣の人がさっさとペンを置き、いかにも「こんなの簡単」と言わんばかりに部屋を出て行く。己の鈍くささ、未練がましさをかみしめる瞬間。人と点数で競いたくないから音楽の仕事を選んだのかもしれない。

サラリーマンの日常だってつらい。毎朝通勤電車の人にもまれ、単調な繰り返しや矛盾にストレスはたまる。しかしだ、高校生の皆さんには申し訳ないが、私は今の仕事がどんなにきつくても、受験生には戻りたくありません。「じゃあ、試験の苦しさを知っててなんで大人は子供の自分たちに課すのだ!」と諸君は思うかもしれません。

それはね、『大人社会に対応すべき準備』なんです。新聞で明らかなように、世の中の『理不尽』はいや応なき試験地獄よりはるかに強引で意地悪でしょう? だからその『理不尽』に対応すべく、打たれ強くなる練習なんです。

受験生の皆さんに2つ伝えたいことがあります。1つは『大学受かれば後は天国』これは大間違いです。2つめは、点数が悪いからって落ち込まないで。人の倍努力しなければついていけなかった高校時代があったからこそ、カラシマは根性のあるメゲない明るい大人になりました(笑)。

(辛島美登里=シンガー・ソングライター)
鹿児島市出身の辛島さんのエッセー。隔週火曜日に掲載します。
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