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'06/02/21 夕刊掲載 
美登里のオフタイム

〜  19  〜

思いやりの「距離」

ライブ前スタッフが楽屋に入ってきて「朝から落ち込んでいます」と言う。原因は空港での出来事。チェックイン後出発ゲート前で服装チェックがあるが、週末の混雑、長い列にまじって並んでいると、後ろの人が妙に背中に接近しツンツンついてきたそのせっつかれる心地悪さを、今も引きずっているというのだった。

海外のアーティストや現場を柔軟にこなすベテランの彼がそんな些細(ささい)なことで、と少し意外だったが、70分待ちのディズニーランドや渋滞の車間距離とか、たかが30センチ動くごとに後追いする人、われ関せずで自分のペースで止まったり急に詰め寄る人、常に前の人に張り付いて割り込まれないようにする人…人それぞれ無意識に快・不快の「自分の距離」があるのかもしれない。

空港といえば、私は私なりに服装チェックでブザーが鳴らないよう配慮しているが、先日鹿児島行きの羽田で約3年ぶりに引っかかってしまった。ブーツを脱がされスリッパを履かされ、列を止めてゲートをくぐり直すのは恥ずかしい。ベルトをはずしてください、という言葉も女性には屈辱的だ。元々ベルトはしておらず、結局ベルト通しに付いていた金属が反応したようだった(そこまで知るかい!)が、一番苦痛だったのは男性係員のにやにやした表情だった。いや、ソフトに接しようとして、たまたま私にそう映っただけかもしれない。でも、クールにきびきび対応してくれたら私はもっと早く気持ちを切り替えることができたと思う。しかもだ、帰りの鹿児島空港、同じ格好で恐る恐るゲートをくぐると…おや? ブザーが鳴らない?! なぜ同じ服が羽田でダメで、鹿児島でセーフなのだ? チェック基準はどこにあるのだ??

何かに対して「嫌」と思うだけでなく、「嫌と感じる自分がもっと嫌」と二重三重に複雑にストレスを背負う、それが大人の感受性だと思う。明らかに容量オーバーと思える荷物を機内に持ち込み結局気の強い人に棚を占領されてあきらめ、空いている機内でなぜか私だけが体格のいい男性と隣り合わせになる貧乏くじを引く…。と、スチュワーデスさんが男性に声をかけた。「あちらのお席が空いておりますが」。彼はスマートに席を移り、共に快適な環境を手にできた。

「たった一言」でゆとりは生まれる。また、ほんの1ミリの表情のゆがみにも傷つく。大事なのは「自分がそう感じるのなら他人もそうかも」と少し距離をおいて物事を思いやることかもしれない。

(辛島美登里=シンガー・ソングライター)
鹿児島市出身の辛島さんのエッセー。隔週火曜日に掲載します。
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