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'06/04/25 夕刊掲載 
美登里のオフタイム

〜  23  〜

美の角度

化粧が誰かのためでなくなったのはネイルアートの出現から、と1人私は確信している。大体、爪(つめ)にイラストを描いたり光る石をつけて料理などできるわけがない。「伸ばした爪が危なっかしくて手をつなぎにくいナァ…」。そう感じる男性は意外と多いのではないだろうか? 子供の世話をするにも飾った爪は不便だ。

つまりネイルアートは、異性や母性以外の女性の美を追求する化粧の象徴だと思うのだ。手入れの行き届いた肌や指はその人の規則正しい生活スタイルを思わせ好感度がUPするが、爪に細工がしてあるからって別にモテはしない。ネイルアートは「ねぇ、見て見て」「うわぁ、カワイイ!」と、男性の前を素通りして、自分もしくは女同士の楽しみに移行した化粧だ。「爪はさ、薄いピンクでいいよ、お化粧もごく普通で…」と願う男性に、「それじゃツマンナーイ、男の基準で化粧してたら一生保守的な顔で終わっちゃう!」とメーク売り場はまるでテーマパークのにぎわいだ。

いつも迷う。美しさの基準はどこにあるのかと。世間は内面の美しさを説く半面、美容整形の進化をたたえたりと二枚舌で女心を誘惑するが、極めつけは、どんなにすてきな仕事をしていようが、超高級エステに通うセレブだろうが「でもそれほどキレイでもないんじゃない?!」とつい冷ややかに否定し、はなからあきらめている私自身がいること。ひがんでいるのではない、もっと高い理想があるはずもない。でも、40歳を過ぎると「私は私」という気持ちが強くなる。

例えばあなたに20年来の親友がいたとして、どこかで親友の悪口を聞いただけで嫌いになるだろうか? 周囲の評価がどうであれ、自分の価値観で何十年もつきあってきているのだ、急に離れたりしないだろう。つまり、人はそれぞれの『美の角度』を持って生きているのだから、今さら他人の尺度やうわさで美を測ったり、流行に乗れない自分を不安に思う必要はない。

私の指はしわくしゃで節くれだち、血管が浮きたっている。ほめられるのは人間ドックの採血注射の時だけで、先日もCM撮りの時「辛島さん、手は後ろに隠して…」なんて言われた。でも私の『美の角度』から言えば全然オッケー。短い指、弱くて欠けやすい爪…でもピアノをよくたたき、とっても働きものの手なのだ。「意外な手だなぁ、でも『職人』みたいでカッコいいね」。昔男性から言われた時、口説き文句とは程遠いがこの人とは『美の角度』が一緒なんだ、とうれしくなった。そう、あなたの一番長い親友は『あなた自身』。自信もってかわいがりましょう!

(辛島美登里=シンガー・ソングライター)
鹿児島市出身の辛島さんのエッセー。隔週火曜日に掲載します。
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