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'06/08/01 夕刊掲載 
美登里のオフタイム

〜  30  〜

いぶし欽

お笑い芸人の不祥事はそう珍しいことでもない。けれど萩本欽一さんの発言で、その事件は注目の的となった。「野球は夢を与えるもの。なのにこんなことになって、野球の神様に申し訳ない。チームは解散します、ごめんなさい」と目に涙を浮かべあやまる姿に、それまで全く関心のなかった私まで寂しさがこみ上げた。欽ちゃんの素晴らしさは3つある。

1つ目は『難しい言葉を使わない』。「僕がこの球団を始めました、でもそのために迷惑をかけてしまいました。だからやめます」みんな、ごめんね…。小学生の子供にもわかる平仮名の多いやさしい言葉遣いでゆっくりはっきりと話すことで、すべての人が事件の内容をきちんと理解することができた。

2つ目は『純粋な気持ち』。野球で夢を与えるはずが、逆に青少年の心を汚してしまった。日本のチャプリンとも呼ばれる名コメディアンの65歳の男性が目をうるませて、「子供のころから野球が大好きだった」と言い、それが悲劇を生んだことに痛々しいほど傷ついていた。欽ちゃんのせいじゃないよ! と私たちは心から同情し、あらためて野球の素晴らしさと野球人としての自覚の大切さに気づいたのだ。

3つ目は『思いやり』。欽ちゃんは「僕が始めた球団なの。責任は指導できなかった僕にあります」と、一度もその芸人を責めなかった。馬鹿なことをしやがって。こいつのおかげで僕や球団のイメージがガタ落ちだよ…。そんな下世話な予想を裏切り、一言、「芸人は人を笑わすもんなの。人を泣かしてどうすんの」と身にしみる発言を残した。「今回は仕事外のオフ日で、当社の関知せぬ全くプライベートな不祥事です。よって契約は解消、コンビも解散します」という所属事務所のコメントに「ま、厳しく処分されて当然でしょ」と冷ややかに見ていた私は、対照的な欽ちゃんの「僕のせいだから野球やめます発言」で目からウロコ、ハッとした。

悪事をはたらき、どんなにしかられ罰を受けてもツッパッていた子が、親の「すいません」とわびる姿を見て初めて、親を悲しませてしまった己の愚行に気づき反省する。周囲はその子ではなくむしろ親のために、更生できるよう手を差し伸べようとする…そんな光景が目に浮かんだ。

人を処罰することはある意味簡単だ。でもそこに愛情があるかないかで、当人の人生は180度変わる。欽ちゃんの行動に感動した人々が『茨城ゴールデンゴールズ』を復活させてくれた。愛は当人だけでなくそれに触れたすべての人の心を揺らすのだと、欽ちゃんは教えてくれた。

(辛島美登里=シンガー・ソングライター)
鹿児島市出身の辛島さんのエッセー。隔週火曜日に掲載します。
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