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'07/01/09 夕刊掲載 
美登里のオフタイム

〜  41  〜

余計じゃないお世話

初商いの混雑に疲れ喫茶店でランチしていると、母が「あらあの娘さん、背中にイタズラ描きされてるわ」。振り向けば20代半ばくらいのワンピース姿の女性の首根っこあたりに白い紙がペッタン。誰だひどいことするのは! 見ると、なんとそれはトランプ大の張るタイプの使い捨てカイロだった。あぁそれ背中や腰に張るとラクなのよねぇと納得してる場合じゃない、早く教えてあげなくちゃと私は立ち上がった。が、言うタイミングが難しい。彼女の席は3テーブル奥。人前で声をかけると余計恥ずかしいかも。セミロングの髪だし、常にカイロが丸見えというわけでもない。肩こりがひどく、隠れる長さを計算してあえて張っているとしたらそれこそ余計なお世話かもしれない…。

 彼女は、どうせコート羽織るしバレないわと外出し、喫茶店に入るころにはすっかりカイロを張ってることなど忘れ、コートを脱いでしまったのだろうか。もしここがトイレなら、用を済ませ出てきたご婦人のすそを指さして「ズボン、折り上げたままですよ」と言うこともできるし、「あらまぁ、ありがとうございます」とご本人からも必ず感謝されるはず。

 実は私も以前電車で、「前のチャック開いてますよッ」とそっと注意されて、すごぉーく恥ずかしかったが、すごぉーく助かったし、いいクスリになった経験がある。だからこそ伝えたい。でも迷惑?どうしよう。意を決した時、彼女の向かい側にお母さんらしき人が見えた。あーよかった母親と一緒なら大丈夫、並んで歩けばすぐに気付いてお母さんがさっとカイロをはがしてくれるわ、と私と母はすっかり安心して店を出たのであった。

 夕方自宅に戻った私は、鏡を見て血の気が引いた。なんと、鏡に映った私の前歯に青菜の切れ端が挟まっているではないか! ランチのトマトパスタのバジルだ。デパートでは「辛島さん、私ファンなんです♪」と言われ、偶然会ったマンションの方にも新年のごあいさつをした私の歯には緑のバジルがニャキッとひっついておったのだ! 私は台所の母を恨めしく見つめた。今日、この人とずっと一緒だったのにたくさんしゃべったのに、なぜ他人の娘さんのカイロには気付いて目の前のわが娘の歯の青菜には気付かなかったのよぉ(涙)…。

 あ! ということは、あちらのお母さんも終日娘の背中のカイロに気付かぬまま1日を終えたかもと思うと、「他人だからこそ見えることもあるのだ」と、「他人だからこそ言ってあげなければ」と、これが新年最初の教訓でありました。

(辛島美登里=シンガー・ソングライター)
鹿児島市出身の辛島さんのエッセー。隔週火曜日に掲載します。
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