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'07/02/06 夕刊掲載 
美登里のオフタイム

〜  43  〜

自分レベルで生きる

インドに着いたら、「バクシーシ(ほどこしを)」に気をつけるんだよ。旅前に何度も言われた。「生半可な慈悲をかけるとかえって災難がふりかかるぞ」とも脅かされ、旅の初日、ガイドのナレスさんにも「たくさんのインド人が声をかけてきますが、全部無視してください」とクギを刺された。確かに行く先々で子供に手を差し出され囲まれ、その度に(返事するな、振り向くな)と念じながら旅を続けた。

 でも旅の後半で気付いたのだが、そういうナレスさん自身は日に1、2回、貧しい人にさりげなくお金をあげていた。観光の途中、わざわざ車を降りてお金をほどこすこともあった。「なんでイスラム寺院の人にまであげるの?」。ナレスさんはヒンズー教徒。異教徒の人を助けることは自分たちが不利になることでは? 「いえ、宗教は違っても神様を信じるのは良いことです。さっき私ヒンズーの神様拝みました。心が幸せになりましたから、宗教が違っていても助けます」と言う。

 日本人にこういう考え方をする人は少ない。「宗教は違うけど、経済的にお世話になっているから援助しましょう」くらいだろうか、味気ないなぁ。確かに宗派の違いは戦争も起こるシビアな問題だけど、インドの庶民の人たちはもっと大らかに受けとめているように感じた。あなたは私の敵かもしれない、けれど神を敬う「心」には共感できるから手を差し伸べよう…豊かな心とは異文化や異教徒にも理解を示す余裕のある心、それこそ平和の指針。こんなふうに世の中が動けばいいと、そして神を持つ人と持たない自分との差を痛感した。

 かといってナレスさんはあげるばかりではない、ちゃんとチップも要求します(笑)。「インド社会はチップも給料の内です」と相場を一通り話し、「あとはミドリさんの気持ちで」と言う。最初に渡した方が親切にしてもらえるかなと渡そうとすると、「仕事が終わった時(夜)に1日分ずつください」と言われた。特に駅で荷物を赤帽に運んでもらう時、札を出して交渉しようとしたら、「先にチップを渡すと荷物を置いて逃げるから、必ず車内まで運んでもらった後に渡すこと」としかられた。

 ほどこしをすると妙に偽善者になった負い目を感じ、チップを渡すと損したような、なんでまた払うのよッと釈然としない気分の私=日本人。インド人の自分レベルな生き方は興味深い。見えを張らず自分のできる範囲で一日一善、仕事も見合ったチップの分でよし。頑張ればたくさん、サボればそれなり。信じる心が今日の自分を骨太に励ましてくれる。

(辛島美登里=シンガー・ソングライター)
鹿児島市出身の辛島さんのエッセー。隔週火曜日に掲載します。
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