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'07/05/01 夕刊掲載 
美登里のオフタイム

〜  49  〜

魂の若い夫

去年結婚した友人が言う。「うちのダンナはね、やさしくていい人なんだけどどうも深みがないのよ」「わ、そりゃキッツイ発言だぁ!」。友人の夫はもちろんちゃんとした企業の会社員で私にはそんな軽い男(ゴメン)にも見えないし、しかも彼女より3歳年下とくれば「ぜいたく言うんじゃありません」と説教したいほどなのだけど。

でも言いたいことはわかる。IQや学歴とは違うものさしが人間にはあることを。これを測るキーワードは「しみじみ」。♪しみじみ飲めば、しみじみとぉ〜別に酒飲みでも八代亜紀でなくてもかまわない、「わびさび」まで渋く浸る必要もない、年齢とは関係なく物事を「しみじみ」観察したり感じられること、それが人間の深みのように思う。

十代でも尊敬に値する発言をする若者もいてそれはきっと「魂が老成している」から。でもって友人はそのダンナの物足りなさを「魂の若い人」と評することにした。人生の奥を知らない若い魂だから、この人は時々私をがっかりさせる、だけど彼のせいじゃじゃない生まれ持っての体質なんだから責めても仕方ない、そう思うとあきらめがつく、と。「でもそれ、随分と彼に失礼な話じゃない? つまり努力してもなおらない、生まれつき軽い男だってことでしょ?」「いいの、好き嫌いとは関係ないし、そうおとしめたら気分がスッキリするから。ケンカしなくてすむもの」。それで夫婦の平和が保たれているならコッソリ激辛トークもアリかと納得した。

私は…「心の画素数」の高い人がいい。散歩や旅をしながら、そこがたとえ名所でなくとも、人々の暮らす何もない風景からいろんなものを見て感じて、その色彩を細かく記憶できる人。でも金銭感覚は大ざっぱな人がいい。心は高画素、頭は低画素…そんな都合のいい相手、いないいない。

「そう、こないだもね」彼女は思い出す。若い魂の夫が、「ぼくねぇ、子供のころ読んだ本で一番泣いたのは『母をたずねて三千里』なんだよ」と言うはずが、「母をたずねて三千歩」と間違えた時、彼女は「もうちょっと歩かなきゃね」と笑いながら泣きたくなったと語った。いつもそう、肝心な時あなたはテーマをムダにする。「しみじみ」した夫婦の会話にたどり着けない。

でも私はいいなと思った。彼女は気配りのできるやさしい女性だが、気が利きすぎていつもいっぱいいっぱいで仕事をしている。完ぺき主義な彼女を救えるのは、心の浅瀬で待つ「魂の若いダンナ」なのだ。あなたはいい男性に巡り会えたのよ、心からそう言うと彼女はまんざらでもなさそうだった。

(辛島美登里=シンガー・ソングライター)
鹿児島市出身の辛島さんのエッセー。隔週火曜日に掲載します。
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