'07/08/08 夕刊掲載
〜 56 〜
故郷を離れて良かったことは、孤独と向き合い自立する機会を得られたこと。そしてもうひとつは、故郷から届く小荷物を開ける幸せを得られたこと。
兄が東京の大学に通っていたころは、まだ国鉄や郵便しか荷物の運送手段がなく、布団や衣類や本当に必要な物しか託すことができなかった。私が奈良の学生寮に入ったその年に、鹿児島−奈良の民間宅配便の配達網がつながり、ようやく気軽に物の送り届けができる時代が始まった。毎朝寮の玄関には寮生それぞれへの故郷(=家族)からの小包が届く。4人部屋の誰かに小包が届くと、その故郷の味のおすそ分けにあずかる。名古屋名物ういろう、高松の讃岐うどん、京都のしば漬け、岐阜の栗かのこ、長野のりんご、広島のおたふくソース、博多のひよこ、水戸の納豆なんかもいただいた。段ボール箱の中に、衣類や書物のすき間を埋めるようにお米やみそやお菓子が隠れている。故郷の素朴な味、それを詰める親の心遣い、すべてが温かい。「わぁ〜!」本人の隣で私もそれをのぞき込んで一緒に楽しんでいた。それなりに恵まれた環境だったにせよ限られた仕送りでみんな生活しており、そんな中で小包の届く朝はささやかなラッキーデーだったなぁと懐かしい。
時が流れコンビニとともに生活の不便さは軽減し、どこに住んでも各地の名産を口にできるようになり、自分の収入もそれなりに得られるようになると、「別に運賃をかけてわざわざ送る必要もないねぇ、東京は何でもあるもんねぇ」と母は言う。確かにそう、高級マーケットをのぞけば鹿児島でもなかなか探せない地の食材や調味料に出合えたりもする。でも1人暮らしの私が家で作る料理といえば、ニガウリのいため物やサバのみそ煮や豆腐とワカメのみそ汁や古くさい定番ものばかり。バルサミコ酢なんてめったに使わないし、卵焼きはオリーブオイルよりやっぱり菜種油の方がおいしい。「そんなこと言わずに送ってよ、食べたいから」。そう頼むと数日後小包が届いた。山川漬け、麦みそ、大豆の煮物、黒砂糖、ボンタンアメ、酢らっきょう、サツマイモ…、そのパッケージがあまりに地方色豊かで、思わず私はデジカメで写真をパチリ。中にはシーチキンの缶詰とか鹿児島とは関係ないものも紛れ込んでてほほえましい、それが贈り物なのだと思う。誰がどんな気持ちで詰めたのか、その思いを小包は距離を経て手から手へしっかり渡してくれる。
ネットで各地の珍しいものを探して贈るのが専らの私だったが、母からのベタな小包に、むしろ新鮮な喜びを感じた梅雨明けのひと時だった。
兄が東京の大学に通っていたころは、まだ国鉄や郵便しか荷物の運送手段がなく、布団や衣類や本当に必要な物しか託すことができなかった。私が奈良の学生寮に入ったその年に、鹿児島−奈良の民間宅配便の配達網がつながり、ようやく気軽に物の送り届けができる時代が始まった。毎朝寮の玄関には寮生それぞれへの故郷(=家族)からの小包が届く。4人部屋の誰かに小包が届くと、その故郷の味のおすそ分けにあずかる。名古屋名物ういろう、高松の讃岐うどん、京都のしば漬け、岐阜の栗かのこ、長野のりんご、広島のおたふくソース、博多のひよこ、水戸の納豆なんかもいただいた。段ボール箱の中に、衣類や書物のすき間を埋めるようにお米やみそやお菓子が隠れている。故郷の素朴な味、それを詰める親の心遣い、すべてが温かい。「わぁ〜!」本人の隣で私もそれをのぞき込んで一緒に楽しんでいた。それなりに恵まれた環境だったにせよ限られた仕送りでみんな生活しており、そんな中で小包の届く朝はささやかなラッキーデーだったなぁと懐かしい。
時が流れコンビニとともに生活の不便さは軽減し、どこに住んでも各地の名産を口にできるようになり、自分の収入もそれなりに得られるようになると、「別に運賃をかけてわざわざ送る必要もないねぇ、東京は何でもあるもんねぇ」と母は言う。確かにそう、高級マーケットをのぞけば鹿児島でもなかなか探せない地の食材や調味料に出合えたりもする。でも1人暮らしの私が家で作る料理といえば、ニガウリのいため物やサバのみそ煮や豆腐とワカメのみそ汁や古くさい定番ものばかり。バルサミコ酢なんてめったに使わないし、卵焼きはオリーブオイルよりやっぱり菜種油の方がおいしい。「そんなこと言わずに送ってよ、食べたいから」。そう頼むと数日後小包が届いた。山川漬け、麦みそ、大豆の煮物、黒砂糖、ボンタンアメ、酢らっきょう、サツマイモ…、そのパッケージがあまりに地方色豊かで、思わず私はデジカメで写真をパチリ。中にはシーチキンの缶詰とか鹿児島とは関係ないものも紛れ込んでてほほえましい、それが贈り物なのだと思う。誰がどんな気持ちで詰めたのか、その思いを小包は距離を経て手から手へしっかり渡してくれる。
ネットで各地の珍しいものを探して贈るのが専らの私だったが、母からのベタな小包に、むしろ新鮮な喜びを感じた梅雨明けのひと時だった。
(辛島美登里=シンガー・ソングライター)


















