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'07/08/22 夕刊掲載 
美登里のオフタイム

〜  57  〜

ゾウの時間ネズミの時間わたしの時間
 ふっと何かに疲れ自信をなくしそうな時、本川達雄氏が『ゾウの時間ネズミの時間』で書いていた『どの哺乳(ほにゅう)類も、一生の心拍数はみんな同じ20億回』という定義をよく思い出す。

 そうなんだ、生きているものは20億回心臓をバクバクさせたらみんな死んでいくんだ…そう思ったらすごく不思議な気持ちになった。となるとあせって心臓ドキドキさせながらすぐ20億回目を迎え短命で終わるより、ゆうっくり呼吸してうんと遅れて20億回目がくるようのんびり長生きするほうが得かも? いや人生は長さではない、いかに有意義な瞬間を過ごすかが大切、ダラダラ生きても仕方ない?

 本川氏の説では、人体は1秒間に約1回心臓がドクッとして寿命は26年(実際は医学や文明の発達でかなり延命している)なのに対し、ハツカネズミは1秒に10回で、人間の10分の1の2、3年しか生きられない。ゾウはトツ、トツ、と3秒に1回で人間の3倍の80年生きる。なので、落ち着きなくドドドと呼吸するネズミの一生は何ともせわしないものなのだが、でもだからこそ猫から逃げることができ、瞬時にいろんな障害物を判別して走れるのだろう。私たちにネズミの俊敏さがあればそりゃ仕事は効率よくはかどり、ライバルを出し抜けるかもしれないし、交通事故や災害さえも回避できるかもしれない。

 対し、人間の3分の1の遅さで心拍するゾウの行動は鈍く、競争社会ではお荷物で負け組となるかもしれない。けどゾウは『待つこと、見渡すこと』ができる。去年アフリカで見たゾウの群れで、ボス像が遅れがちな子象を気遣い、長い鼻で子象のお尻をつつきながらノッソノッソと夕暮れの森へ誘導していく風景は、『みんなで生きる』ことの連帯感に包まれていた。

 イライラするのは、他人のルーズさがまどろっこしくて腹が立つから。落ち込む時は、他人のレベルに追いつけない時。でも人間界にもネズミ派、ゾウ派などいろいろあって、たまたまその時々の相対関係で上下や○×が決まるだけで、人や環境が変わればまた自分の評価も気分も変わるのだと思う。

 対人関係がうまくいかない時は「コイツはただのネズミだ、気にするな」と言い聞かせ、またある時は「アイツはゾウ気質だからのんきだけど、悪気はないのだ」と想像してみる。すると、相手の顔がいろんな動物に見えてくるから面白い。同時に今の自分の顔がゾウかネズミか、鏡をのぞいてみるのもいい。大事なことは、神様から平等に与えられた20億回という限りある心臓の鼓動を、私らしい音で鳴らし一生を終えることだと思う。
(辛島美登里=シンガー・ソングライター)

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