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'07/09/19 夕刊掲載 
美登里のオフタイム

〜  59  〜

再起のための散り際の美学

朝青龍より安倍総理の(辞任)会見の方が早かったネー、なんてノンキに眺めてた人は誰もいないだろう。政治的責任や健康的理由か何か知らないが、「美しい国づくり」を高らかに謳(うた)った本人がドタキャンに近い形で辞意表明し周囲をポカンと戸惑わせ「有終の美」を飾れないなんて、やっぱりこの人は耳当たりのいいキャッチコピー感覚で「美しい」を連呼してただけだったのかと、私は日本人として寂しかった。岸首相がおじいちゃんでお父さんは外務大臣、エスカレーター式で大学まで過ごし、落選経験もなく、総理大臣になるのに普通30年はかかるコースを議員経験たった13年で上りつめた人生だもの、わびさびどころかブランド品を一通り手に入れた程度の経験値の人間に、「美しさ」という哲学的な言葉をもって1億2000万人を納得させ、政局を乗り切れるはずはない。

日本人はなぜ桜を好むのか? それはひとえに散り際が美しいからだ。彼は血統つきで華やかに満開の総理デビューを飾った。しかし季節が過ぎても散らずに粘ってしまった。途中大臣の不祥事や年金問題やいくつもの大嵐が吹き、散りどきはいくつもあった。その度に散ろうとする花びらを無理やり枝にはり付け体裁を保った。参院選に大敗するという絶好のタイミングさえも無視してしまうと、逆にその姿があまりに珍しくて、「おや? もしかしてこれは新種の桜かいな?」と、民衆は困りながらも様子を見ようかと思っていたのに、季節が秋になる直前バサッと根こそぎ倒れ辞任したもんだから、私たちは怒りを通り越してアングリと脱力してしまったのだ。

安倍さんという桜は海外の首脳陣と肩を並べても見劣りせず、そこそこ見栄えのよい花だった。腹黒くもなく強烈な個性はないがクリーンなイメージは時代の求めていた政治家像に近かった。でもソフトな語り口の割に意外と人の話を聞く耳を持たない人だったように思う。辞任のコメントでは「国民の信頼を得られない」ことを挙げながらも、それが自分の至らなさと認める発言はなく、結局国民にあやまらなかった。しかも「心労で疲れちゃった」なんて入院されてしまい、ふりまわされてきた私たちが「お大事に」と言うしかないなんて、病んでる人には酷かもしれないけど矛盾してる。

気持ちよく再起するためにも、散り際は大切。「やっぱ帰国したらまずはあやまんなきゃなぁ」とモンゴルにいる朝青龍が学んでくれますように、と小さく期待している私なのだ。

(辛島美登里=シンガー・ソングライター)

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