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'08/03/12 夕刊掲載 
美登里のオフタイム

〜  71  〜

ハートフルなエコ

インドを旅していた時、飲み干したペットボトルを捨てようと「ゴミ箱はどこですか」とガイドに聞いたら、「?」な顔をされた。「なければ持って帰るから大丈夫」とリュックにしまおうとすると、「いや私が処分します」と言うので渡したら、彼はそのペットボトルをポイッと歩道から車道に放り投げるではないか。「わ、やめて!」、さえぎろうと周囲を見たら、あちこちにペットボトルや噛(か)み煙草(たばこ)のカスやビニール袋や、ゴミが雑草のように点々と散らかっており、反対側の歩道から他のインド人も車道に向かって空き缶を放っていた。彼はマナー違反者ではなく、インド人として普通に『インド式お片付け』をしたまでのことだったのだ。

インドの衛生状況はかなりのサバイバルで、列車のトイレはそのまま排泄(はいせつ)物が線路に落ちていくし、売り物の水は最初からふたが開いているものも紛れているので、私のような旅人は勿論(もちろん)、インド人のガイドさえも一緒におなかを壊すくらい筋金入りの生活環境なのだが、不思議と不快ではなかった。訪れた場所は貧しい人も多かったが、日本の交番の数ほどの寺院はどこも大盛況で、何か人肌の豊かさがあり、信仰を持つことでこの国は11億もの民をまとめてきたのだと知った。

私自身、エコを意識し始めたのはここ4、5年だろうか。でも先日区役所からの通達で、少なくとも5、6個の分別ゴミ箱が要ると知り、正直ため息が出た。それぞれの容器を洗いシールをはがし部品ごとに分けるのは結構労力を要する。いやそれ以上にどこか命令調の窮屈感があって、資源を大切にしみんなでやさしい環境を作ろう、というエコ本来の喜びに遠い気がした。例えば、渋谷の繁華街は最近きれいになったが、そこで遊ぶ子供たちの表情が良くなったとは思えない。それは清掃が行き届いても心のエコがちゃんとしていない証しではないだろうか。

ヨーロッパで暮らしていた友人に、日本の電柱と電線が空の空間を分断し美的でないと指摘されたことがあったが、実はピンとこなかった。糸電話じゃないが、あの電線を見ていると何か家同士がつながっている気がするし、電線に止まって遠くを見渡す鳥や、並んでいるスズメたちを眺めるのも、個人的には好きな風景なのだ。

今私はマイ箸(はし)を持ち歩いている。ケースはハンカチを利用して手縫いで仕上げた。自分の箸で食べるだけで、いつもの食事がグンと美味(おい)しく感じることに驚いた(お酒が入ると店に置き忘れるのが悩みの種なのだが)。

エコを続けるには心が必要。それも一辺倒ではなく、日本人らしいアプローチがあるはず、と思いをめぐらしている。

(辛島美登里=シンガー・ソングライター)

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