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'08/05/07 夕刊掲載 
美登里のオフタイム

〜  75  〜

いいかげんに聖火!

長野の聖火リレーは終わった。約3000人の厳戒体制の町を、100人の警察官に囲まれてランナーは聖火を持ち、必死で笑顔をふりまいて走ったが、ハプニングを恐れるその瞳は不安を隠しきれなかった。聖火が長野に再びやってくる…沿道を花で美しく飾り歓迎ムードだった市民も、当日は混乱を恐れ花壇や備品をしまい、ベンチを片付け、街は殺風景と化した。10年前の長野オリンピックの時、幼稚園に勤めていた私の友人は園児を連れて、道端で日の丸と五輪の旗をパタパタ振って選手を応援したそうだ。「オリンピックが成功しますように。みんなが日本を好きになってくれますように!」という純粋な思いでつながっていた。しかし今回は、分厚い防護団と赤い旗に阻まれ選手は見えず、飛び交う中国語に日本語はかき消され「一体ここはどこの国?」と戸惑い、「この物々しい光景を、未来を背負う子供たちには見せられない」と痛感したという。

 日本は原爆を落とされた唯一の国なのに、概して平和への意識がぬるい。私もチベット暴動に関しては当初、他人事だった。それが長野の善光寺が「チベット暴動による僧侶の武力弾圧に配慮し、聖火リレー地点を辞退する」と申し立てた時、急に身が引き締まった。

 善光寺は「仏教徒と文化財を守りたい」という理由のもと、「ここでやらないでください」と異を唱え、当日寺では、チベット暴動での犠牲者を追悼する法要を行った。その凜(りん)とした筋の通し方を日本人として私は誇りに感じた。中国とチベットのかかわりは、歴史的にとても根深く、痛ましい問題だ。日本も同じアジア人として果たすべき任務もあるはず、しかしどこでも何でも争っていいわけではない。「北京オリンピックを私は支持する、いかなる妨害もしてはならない」とダライ・ラマが言うその真意は、各国の聖火リレーなどを妨害して民衆を不安がらせ、ガッカリさせることより、オリンピックで世界各国の人が中国にやってきて、世界中のメディアが生の中国の現状を報道し、正しい知識と良識の中で、このチベット問題が正当に審議されることを望んでいるのだと思う。

 「中国を応援するために来た」という若者の気持ちも理解したい。誰だって自分の国を非難されたら悔しいし、憤るだろう。でも暴動に加担した人たち(日本人も含む)は、何の罪もない他人の町に来て、生卵なんか投げつけて、ランナーを妨害して、自分の主張をした気になって、それで世界に好印象をもたらしただろうか? よその国に来たら、自分が国の代表なのだ。すべての映像が世界中に流れ、隠しおおせない時代であることに早く気付いて欲しい。

(辛島美登里=シンガー・ソングライター)

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