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 よほどうれしかったのだろう。1955(昭和30)年に「白い人」で芥川賞を取った遠藤周作さんは、翌年生まれた長男に「龍之介」と名付けた。作家仲間が次々と受賞する中、どうしても欲しい賞だった。

 こちらも長年の悲願がかなった。遠藤さんの名作「沈黙」を映画化した巨匠、マーティン・スコセッシ監督である。28年前に原作を読んで以来、温めていた作品が21日から公開される。

 「ローマ教会に一つの報告がもたらされた」の書き出しで物語は始まる。キリスト教徒が弾圧されていた江戸時代、日本に派遣された著名なポルトガル人司祭がキリスト教を捨てた。その理由を探るため、2人の司祭が送り込まれる。

 神学校で学んだ経験もあるスコセッシ監督は信仰で悩んでいる時、小説に出合った。教義に殉じるか、棄教して信者の命を救うか。選択を迫られる司祭の心の内面の描写は、淡々としながら鋭く、深い。

 ただ宗教的な意味だけを訴えているわけではない。「物が豊かになり、技術が進んだ今だからこそ、人を信じるという心を真剣に議論すべきだ」。宗教に絡んだ紛争が世界に広がる中、見つめ直したいテーマである。

 司祭らはザビエルに憧れを持っている。ゆかりの深い鹿児島にとっても遠い話ではないだろう。きょうは芥川賞の発表の日だ。世界の巨匠の魂を揺さぶった遠藤作品に続く新人の傑作を待ちたい。