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 福岡の歓楽街・中洲のスナックで、見知らぬ50代半ばの男性からカラオケを勧められた。「鹿児島の人だから歌えるでしょ。ぜひ聴きたか」。リクエストは「茶わん虫の歌」である。

 当方のカライモ標準語が、中学時代に耳にした曲の記憶を呼び起こしたようだ。南九州を巡る修学旅行でバスガイドに教わったらしい。「車内が一気に盛り上がった。旅一番の楽しい思い出」と聞けば、マイクを握らずにいられない。

 「うんだもこら」で始まる愉快な歌詞と親しみやすいメロディーは今なお、修学旅行生らの心をつかみ続ける。鹿児島交通観光バスのガイドは欠かさず披露するそうだ。新人教育のテキストに必須科目として受け継がれる。

 「難解さが好奇心をくすぐり、生徒との距離を縮めてくれる」。教官を務める黒葛野(つづらの)ゆかりさんの説明に、鹿児島弁のユニークさを改めて思った。共通語から最も遠いとされ、太平洋戦争で暗号代わりに使われた歴史もあった。

 熊本地震の影響で、鹿児島への修学旅行を取りやめた学校が戻って来ないという。行き先を変えると3年は続くと言われる厳しい世界だ。巻き返しに攻勢をかける観光業界に期待したい。

 歌を聴き終えた男性は「やっぱりインパクトがすごか」と笑みを見せた。修学旅行のバスで笑顔の花を咲かせる若者の姿も、どんどん増えてほしい。「茶わん虫の歌」と一緒に歓迎する。