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 「オカアチャン、オクチ、スズメサンミタイ」。詩人金子みすゞの「南京玉」(JULA出版局)は当時3歳だった娘ふさえさんのおしゃべりをつづった作品だ。かたかな書きの一文一文に深い愛がにじむ。

 七色の南京玉のように愛らしい娘の言葉を書き留めることは「何ものにもかへがたい、たのしさだ」。そう記した母は、26歳の若さで命を絶った。別れた夫に娘を引き渡すことを拒んでのこととされる。

 昭和初期のころである。女性の立場は弱く、離婚の原因が夫側にあっても妻が親権を握ることは難しかった。今の世なら、娘と暮らせただろう。心を揺さぶる詩がもっと生まれていたかもしれない。

 いくつになっても、子どもにとって母親を失う精神的な痛手は大きい。その死から立ち直れない「母ロス」という言葉も聞く。専門家は対処法の一つに「心に故人の居場所をつくること」を挙げる。

 ふさえさんにとって、形見となった幼い日の記録は「大切な心の宝物」だ。金子みすゞ記念館館長の矢崎節夫さんは「日本中のお母さんとお子さんとの新たな宝箱づくりへ広がってくれたら」と語る。

 きょうは母の日。諸説あるが、約100年前の米国で一人の女性が母の好きだったカーネーションを教会で配ったことが始まりという。母親に感謝しつつ幼き日を思い返してはどうだろう。ぬくもりが詰まった宝箱が見つかればいい。