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 映画「007」でおなじみの英国諜報(ちょうほう)員ジェームズ・ボンドの名は実在した鳥類研究者に由来するという。「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」(新潮社)で知った。

 ボンドの生みの親であるイアン・フレミングが地味な名前にしたいと愛読書の著者名を拝借した。おしゃれでハンサムなすご腕スパイとして自分の名が世界に知れ渡るとは、当の本人は思いもよらなかったに違いない。

 人類の危機を幾度となく救ったボンドよろしく、「C・エレガンス」という耳慣れない生き物も人知れず危険と闘っている。体長1ミリ程度の線虫である。動きが優雅で美しいからと、100年ほど前にこの名を授かったと伝えられる。遺伝子研究では長く重宝されてきたらしい。

 気品ある名前からは想像しにくいが、犬並みといわれる嗅覚を備えているから侮れない。人ががんにかかっているかどうかを、尿のにおいでかぎ分ける。これを“武器”に使った検査装置の開発が進んでいて、メーカーは2019年にも量産態勢を整えるという。

 9割の確率でがん患者を見分けたとする鹿児島市の病院の報告もある。検査に伴う体への負担は少なく、費用も安上がりと聞けば、一気に身近に感じられる。

 この世は人の胃や腸にへばりついて激痛をもたらすアニサキスのような線虫ばかりではないようだ。小さなすご腕の活躍ぶりに期待したい。