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 昔、南九州に「おっとい嫁女(よめじょ)」の風習があった。「おっとい」とは盗むという意味の鹿児島弁だ。青年が娘を連れ去る略奪結婚である。鹿屋市の郷土史家石踊二男さんによると、娘も合意していたというから駆け落ちに近い。

 協力者もいて逃亡を手助けし、成功すると集落の顔役が両家と事後承認の交渉をしたという。鹿児島は身分制が厳しく、家格が合わない婚姻は許さない風潮があった。一方で婚礼をするだけの財力がない世帯も多く、家計の事情も絡んでいたようだ。

 自由恋愛の今も、結婚は思うに任せない面がある。男性の4人に1人、女性の7人に1人が結婚しない未婚社会になった。人生の選択は多様化し、生き方は人それぞれだ。ただ、結婚の意思はあるのにあきらめてしまうのは気になる。

 非正規雇用の増加を背景に、身を固める展望を持てない若者が増えている。収入が安定しなければ安心して子供を産み育てるのは困難で、家庭の未来は描けそうにない。

 人口減少に悩む自治体では、男女の縁結びを後押しする「官製婚活」も盛んだ。地域の切実な事情があるものの、結婚や出産という私的な領域に行政が立ち入るのはなかなか難しい。

 とはいえ、おっとい嫁女の世に後戻りはできない。未婚社会の打開には、質の高い雇用の受け皿づくりに取り組み、希望する人が結婚しやすい環境を地道に整えるしかなさそうだ。