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 その人は指先でコミュニケーションをとる。両手の指を点字タイプライターのキーに見立てて触れてもらう「指点字」で相手の話を聞く。東京大学教授の福島智さんである。

 9歳で失明し、18歳で聴力を失った。日本のヘレン・ケラーともいわれる。会合の議論を隣の介助者に同時通訳してもらい、じっと「耳」を澄ませる。やや甲高い声で理路整然と発言する姿が印象深い。

 福島さんは昨年夏、重度障害者19人が殺害された相模原市の津久井やまゆり園を訪ねた。花屋に頼んで種類や色を違えた19個の花束を手向けた。命を奪われた一人一人がかけがえのない存在であることを示したかったという。

 「障害者なんていなくなってしまえ」。被告の暴言が1年たっても頭から離れない。事件の半年ほど前まで働いていた職員である。本来なら偏見や差別から守ってくれる味方のはずだ。誰を信じて良いのか、不安と不信に陥った障害者や家族は多い。

 事件を受けて刊行された「生きたかった」(大月書店)に、福島さんがコラムを寄せている。元職員のゆがんだ「正義」にヘイトクライム(憎悪犯罪)と優生思想が潜む。労働力や生産効率で人の優劣を決めてしまう風潮が根っこにあるとの指摘が重い。

 障害の有無にかかわらず要らない命などあるはずがない。大切にすべきものは何か。19種類の色とりどりの花束は私たちに問いかける。