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 俳人小林一茶はハエやカエル、スズメなど小さくて弱い生き物をよく詠んだ。子どもや家族に向けるまなざしも温かい。「蚤(のみ)の跡かぞへながらに添乳(そへぢ)かな」。乳を含ませながら、ノミにくわれたわが子を案ずる母親が目に浮かぶ。

 本紙の音読コーナーを推奨する東北大学の川島隆太教授は、最近よく目にする母子の姿が気になっているという。授乳中にスマートフォンをいじる母親である。一茶の見つめた光景とはずいぶん違う。

 赤ちゃんはまだぼんやりとした視力で懸命に母親の顔を見つめ、聞き慣れた声を探そうとする。それなのに、母親があらぬ方向ばかりを見ていたら、どうだろう。

 「サイレントベビー」という言葉がある。あまり笑わないし、泣かない。成長してからも感情表現が乏しいままで、人の感情も上手に読み取れない。テレビやビデオなど長時間の一人遊びが原因とされてきた。

 今のスマホにはぐずる子を音や映像であやすアプリもたくさんある。川島教授は「授乳は単なる栄養補給ではない。親子の情愛を確かめコミュニケーションの基礎を育てる時間を大切にしてほしい」と訴えた。

 一茶は幼くして母を亡くし、家庭には恵まれなかった。そんな生い立ちが人間味あふれる名句を生んだと言われる。ノミに悩まされることのない時代とはいえ、母と子が愛情を育む時間が失われているなら、ちょっと不安になる。