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 昨年11月に封切られたアニメ映画が国内外で人気を呼んでいる。広島市出身の漫画家こうの史代さん原作の「この世界の片隅に」(片渕須直監督)だ。

 軍港のまち広島県呉市へ嫁いだ主人公すずの視点で、戦中の暮らしぶりが描かれる。物資不足にもかかわらず工夫を凝らして食事を作り、洗濯をし、家族と笑いあう。だが、やがて始まる空襲と広島市への原爆投下で平穏な日々は暗転する。

 惨状を生々しく描いている訳ではない。悲しみや怒りを声高に訴えてもいない。淡々と紡がれる物語が、戦争は日常のすぐ近くにあることを教えてくれる。

 きょうは72年目の「広島原爆の日」だ。被爆者や戦争体験者は年々高齢化し、話を直接聞く機会は減っている。記憶の風化を食い止め、どう継承していくかが大きな課題だ。

 ただ心配ばかりしなくてもいいかもしれない。当初、映画の制作資金をインターネット上で募ったところ、3カ月足らずで3000人以上が賛同し4000万円近くが集まった。「語り継がなければ」との思いが結集した作品ともいえそうだ。

 北朝鮮が核・ミサイル実験を繰り返し、米国の大統領は核戦力強化への意欲をみせる。あらためて核兵器が現実の脅威として感じられる時代だ。だからこそ、あの夏に何があったのか見つめ直したい。「この世界の―」は12日から18日まで鹿児島市のガーデンズシネマで再上映される。