( 8/9 付 )

 歌手の福山雅治さんの曲に「クスノキ」がある。出身地の長崎市の神社に立つ大クスが題材だ。原爆の爆風や熱線で枝葉が吹き飛び、幹が黒焦げになっても朽ちず、平和と生命力の象徴として親しまれる。

 きのこ雲の惨禍を伝える「もの言わぬ語り部」である。福山さんは「我が魂はこの土に根差し 葉音で歌う生命の叫びを」とうたう。被爆2世の使命感に導かれたと自身の番組で語っていた。

 核兵器禁止条約が国連で採択されて初の原爆忌を迎えた。だが、被爆地に笑顔は広がらない。唯一の被爆国でありながら、日本が条約に背を向けているからだ。米国の「核の傘」に頼ることを優先した。

 北朝鮮が核・ミサイル開発に突き進む中、抑止力は重要である。確かに安全保障の現実は厳しい。とはいえ、条約交渉の席にすら着かないのは嘆かわしい。長崎市の田上富久市長はきょうの式典で、政府に条約参加を訴えるという。

 条約は核兵器の開発から使用、威嚇までも違法とする画期的な内容である。被爆者が自らケロイドをさらしてまで、核の非人道性を訴え続けてきた努力の結晶だろう。「核なき世界」の道は険しくても、画餅にすまい。

 被爆者の平均年齢は81歳を超えた。その思いは朽ちることはない。被爆クスノキの苗木は全国に配られ、鹿児島でも育つ。クスの葉が触れ合う音のように核廃絶のメッセージが広がればいい。