( 8/11 付 )

 若き日の永六輔さんは「芸能界の寄生虫」と批判されたことがある。今でいう娯楽番組でテレビ時代の幕を開き、歌を書いては「上を向いて歩こう」に代表されるヒットを次々飛ばした。昭和30年代のことだ。

 映像を通した大衆芸能はまだ日が浅く、軽んじられたのだろう。耳に届く否定的な声に迷いを深めたようだ。そんなとき、師と仰ぐ民俗学者宮本常一に背中を押される。「放送の先にいる人に会いに行きなさい」。

 スタジオを飛び出した永さんは1年の大半を旅先で暮らす。庶民の生活に分け入り、等身大の死生観をラジオで発信し続けた。「日常で変だなと思うことを話す市民運動」とは、いかにも反骨の人らしい。

 その永さんが残した言葉が没後1年の先月、「大遺言」(小学館)にまとまった。著者は孫の大学生永拓実さんだ。ゆかりの人々から拾い集めた言葉はどれも平易な言い回しで、すとんと胸に落ちる。人生の羅針盤として、多くの人の心に今も息づく。

 拓実さんは祖父が生きた時代に思いを巡らせながら、言葉の意味を解きほぐしている。「ライバルのように思えて刺激を受けた」とラジオで語った。執筆しながら孫は祖父との「対話」を重ねたに違いない。

 お盆を迎えるこの時期、祖父母や親戚に会う機会が増えるだろう。人生の先輩の声に耳を澄ませば、生涯を導くつえになる言葉にきっと出合えるはずだ。