[自民の改憲論議] 国民分断を招かないか
( 5/26 付 )

 安倍晋三首相による2020年の憲法改正施行提案を踏まえ、自民党は党内論議を加速させる方針を確認した。

 憲法9条への自衛隊明記などを唱える首相は、年内に党改憲案を公表したい考えだ。党幹部は早ければ、来年の通常国会での改憲発議を目指すとしている。

 党憲法改正推進本部は、幹事長や政調会長ら執行部役員が加わるなど態勢を強化した。

 改憲論議に首相の意向を強く反映させる狙いだろう。改憲案の取りまとめに前のめりの姿勢がうかがえる。

 だが、改憲の発議権は国会にある。首相の改憲発言は、行政府の長が公然と立法府の権限に介入するのも同然である。

 深刻なのは、衆参の憲法審査会で合意形成を重視する与野党の路線が断ち切られたことだ。

 このまま改憲が発議されれば、数の力で野党の反対を押し切り、強行採決を繰り返さざるを得なくなるだろう。

 改憲の最終的な決定手続きは国民投票にゆだねられるが、各種の世論調査でも9条改正への賛否は分かれている。

 拙速な発議の末に国民投票という重い選択を迫るなら、国民を分断する結果を招きかねない。

 衆院の憲法審査会は野党の反発で一時中断したものの、自民党が「与野党で丁寧な議論を積み重ねる」と釈明し、ひとまず再開にこぎつけた。

 とはいえ自民党は、首相発言はあくまで党総裁としての考えとし、何ら問題はないとの立場を崩していない。

 今後、審査会はどのように議論を積み重ねていくか、存在意義が問われよう。

 安倍首相は憲法記念日のメッセージ以来、積極的な発言を続けている。目立つのは「首相」と「党総裁」の使い分けだ。

 こうした対応で国会での説明を拒む姿勢は目に余る。首相に課せられた憲法尊重、擁護義務にも反する恐れがある。改憲自体が目的化し、憲法を軽んじているなら、到底容認できない。

 首相の9条改憲案は戦争放棄の9条1項と戦力不保持の2項を残したまま、自衛隊の存在を書き込む「加憲案」だ。12年にまとめた党改憲草案の内容とも異なる。

 なぜ20年施行と期限を区切るのか、党草案との整合性はどうなるのか。そもそも改憲の機が熟しているといえるのか、疑問は尽きない。

 憲法は主権者である国民のものだ。一人一人が改憲論議の行方にしっかり目を凝らす必要がある。