[改憲案検討へ] 透ける首相主導の思惑
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 憲法は国の最高法規である。国民主権の下、その改正議論はあらゆる角度から丁寧に進めなければならない。

 それなのに、期限を区切って首相主導で推し進める議論は健全な姿だろうか。「改憲ありき」の思惑が透ける。

 自民党の憲法改正推進本部が改憲論議をスタートさせた。

 憲法への自衛隊明記のほか、教育無償化、大災害時の緊急事態条項創設、参院選の「合区」解消を含む選挙制度の4項目を柱に議論するという。

 年内をめどに党の具体案をまとめ、来年の通常国会での改憲発議を目指す考えだ。

 4項目が並ぶが、狙いは9条改正である。安倍晋三首相が5月3日、改憲派の集会に寄せたビデオメッセージで明らかにした。

 戦争放棄をうたった9条1項と戦力不保持の2項は残し、「自衛隊を明文で書き込む」という提案である。

 その背景には、自衛隊の存在を9条に追加する是非を「加憲」論議の対象としたことがある公明党の了承を得やすいという計算があるに違いない。

 衆議院と参議院で3分の2を占める「改憲勢力」での発議を急ぎたいという思いもあろう。

 自民党内では、9条3項を新設し、「前項の規定にかかわらず自衛のための自衛隊を置く」とする案や、「9条の2」という条項を設けて自衛隊を規定する案などが浮上している。

 だが、いずれの場合も自衛隊を「自衛のための必要最小限度の実力組織」と解釈し、活動を制約する根拠としてきた9条2項が空文化する恐れがある。

 2項による制約が利かなくなって、一層の武力行使に道を開くことになりかねない。

 9条を巡る論議は、憲法制定の歴史的歩みと今後の安全保障政策、自衛隊の在り方などを総合的に勘案すべきものである。

 改正しなければ現実に対応できない、との認識が国民に広く共有されることが大前提のはずだ。

 首相の提起は、衆参の憲法審査会で重ねてきた議論とも、自民党が2012年にまとめた改憲草案とも異なる。

 推進本部のメンバーには、首相の改憲提案に否定的な石破茂元幹事長も起用された。批判勢力を取り込んで、異論を封じたいとの狙いもあろう。

 しかし、憲法改正は腰を落ち着けて国民の合意形成を図ることがが不可欠だ。首相が打ち出した期限設定を既成事実化して進めることがあってはならない。