[首相の改憲提案] 国民の目先そらすのか
( 6/30 付 )

 安倍晋三首相の改憲発言が波紋を広げている。先週末の講演で、秋に想定される臨時国会に自民党の憲法改正案を提示すると表明した。

 首相の主張は戦争放棄を定めた9条1項や戦力不保持の2項は残した上で、自衛隊を明記する「9条加憲案」が柱だ。

 これまで党の改憲案は年内に取りまとめるとしてきた。今回はさらに日程を前倒しし、エンジンを吹かした格好だ。

 だが、自民党内では憲法改正推進本部での議論が始まったばかりである。9条加憲案には賛否両論が出されており、党内から拙速を戒める声も上がる。

 にもかかわらず、なぜ首相は改憲論議をせかせるのか。

 安倍内閣の支持率は報道各社の世論調査で軒並み急落している。首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」問題や「共謀罪」法を成立させた強引な国会運営がたたり、批判がやまない。

 こうした厳しい局面を打開し、何とか国民の目先を変えたい。安倍首相が今回、持ち出した「改憲カード」にはそんな思惑があるのではないか。

 政権が苦境から脱するため、世論の目先を変える手法に頼るケースは多い。特定秘密保護法や安全保障関連法の強行成立で支持率が落ち込んだ際にも、外交や経済重視政策などを掲げてきた。

 中でも改憲は局面打開を狙う「最強カード」(自民党幹部)だ。難局を乗り切るためなら論点のすり替えと言わざるを得ない。

 今、政府が最優先で取り組むべきことは加計学園の獣医学部新設を巡る真相の徹底解明だ。国民が問いたいのは行政の公平性や透明性である。

 改憲は少なくとも喫緊の課題ではなかろう。憲法に著しい不備があり、改正を求める国民的な声がわき上がることが前提だ。自衛隊は国民に支持されており、改憲機運が高まっているとは言えない。

 加計問題を追及する野党は憲法53条に基づき、臨時国会の早期召集を求めている。だが、安倍政権が応じる気配はない。

 53条は召集期限の定めがなく、開会するかどうかは首相の意向次第だ。とはいえ、改憲案で臨時国会に言及しながら野党の要求を無視するのはご都合主義だ。

 そもそも今年の憲法記念日に2020年の施行を目指すとして、9条改憲を提案したのはいかにも唐突だった。

 本来、改憲論議は合意形成のため丁寧な議論の積み重ねが欠かせない。疑惑逃れで改憲を持ち出すようでは不信感が募るだけだ。