南さつま市坊津町泊の山間部に広がる鈩迫(たたらざこ)集落。3月上旬、1人暮らしの米山喜代子さん(83)は、近くの土手で摘んだツワを袋に詰めていた。直販店に出すためだ。一緒にかごに入れた採りたてのフダンソウもみずみずしい。
米山さんの畑は広さ10アールで本来は自家用。余った分は鹿児島市や関西に住む子供たちに送るか、そうでなければ捨てていた。しかし2年前にJA南さつまの直販事業に参加して以来、野菜作りが生活の張りをもたらした。手取りは1回の出荷で1000円に満たないが、「鹿児島市の孫から『ばあちゃんの野菜が売っていたよ』と電話がかかってくる。そんな会話が弾むのもうれしい」
鈩迫は100人余りが暮らす農村。直販事業には集落ぐるみで取り組み、18人が出荷する。過疎高齢化が進む集落は活気を取り戻し始めた。
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| 野菜の出荷について近所の主婦に相談する米山喜代子さん(右)。商売につながる会話が集落に活気を生む=南さつま市坊津町泊の鈩迫集落 |
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鈩迫集落はラグビーボール型の寝太朗スイカやポンカンなどの特産地だ。だが、高齢化と農地の狭さがネックになり専業農家は姿を消した。細々と農業を続けるお年寄りが残った。
「以前はたわいない世間話ばかりで限界集落に向かっていた。それが直販のおかげで活気づいてきた。放棄されそうな畑も生き返った」。自治公民館長の米山三夫さん(69)は直販導入の効果を語る。
最初の出荷先は鹿児島市与次郎地区に06年11月、開店したJA経済連の農産物直販店「おいどん市場」。品ぞろえを充実させたいJA南さつまから「高齢者にもうひとがんばりしてもらいたい」と誘われたのがきっかけだ。
当時、鈩迫出身の夫とともに東京から移り住んだばかりの米山仁美さん(61)も呼びかけに応じた。捨てていた野菜を見て「これは絶対売れる」と都会の主婦感覚で助言し、周囲を励ました。
本格的な野菜作りに向け、講師役を務めたのは集落の米山豊吉さん(87)だ。この道60年のベテラン。栽培のこつを伝授した。さらに仲間同士で気付いたことを出し合い、品質の向上に努めた。その結果、捨てていた野菜は今や年間売り上げが数百万円という商品に生まれ変わった。
おいどん市場への出荷者は8割が鈩迫と同じような小規模農家だ。「市場の目的は鹿児島市民に県内産農畜産物を知ってもらうことと、小規模農家の売り場づくりにある」と春別府伸郎館長(55)。
同市場では農家がそれぞれ値段を決め、品物に名札を付ける。売りは安さと新鮮さに加え、地場産ならではの安心安全だ。消費者ニーズに合致し、常連客も増えている。出荷者は開業1年半足らずで750人と倍増した。
自家用を出荷用へ、大消費地でなく近くの直販店へ。春別府さんは「同様の直販店はどこも品薄状態。小規模農家が元気を出せる余地はまだまだある」と期待する。








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