2016/09/20 本紙掲載
闇と光の日々
“心の病”
息子自死、後悔今も 「休み勧めていれば」
 慌てる気持ちを抑え、マンションの鍵を開けた。そこには変わり果てた長男行康(ゆくやす)さん(21)の姿があった。
 2010年8月11日の夜。南さつま市の平神純子さん(59)が、夫とともに鹿児島市の行康さん宅に駆けつけたときのことだ。
 その日、行康さんが最近、仕事に来ていないと同僚から知らされた。電話にも出ない。「それでも最悪の事態は考えもしなかった」
 行康さんは月1、2回、実家に帰っていた。10日ほど前にも会ったばかり。特に変わった様子はなかった。
自宅で長男行康さんの遺影に手を合わせる平神純子さん=南さつま市
 その何日か前には、行康さんが働くレストランで会った。「照れ笑いを浮かべ、うれしそうな顔をしていた」
 幼い頃から料理をするのが好きで、専門学校に進み、調理師免許を取った。レストランに勤めて3年目。突然、自らの人生に幕を下ろした。遺書はなかった。
 友人から後日、亡くなる1、2カ月前に行康さんがインターネット上の交流サイトに残したメッセージを教えられた。
 苦悩をうかがわせる内容だった。
 6月24日〈なんか切ない。毎日同じ事の繰り返し。そこから何も伸びない自分。もうここまでなのかな〉
 7月2日〈そろそろヤバいかな。飛び降りる自分を想像してたり。現実になったら僕はここにいないね〉
 平神さんは当時、仕事に追われ、行康さんとゆっくり話せなかったことを悔やむ。
 「最後に話したとき、私は一人前の調理師になるため頑張れと励ましていた。あのとき休んでもいいんだよと言えていれば…」
 毎日、仏壇に線香を上げ、遺影を見つめる。息子を救えなかった自責の念が消えることはない。
 国が07年に策定した自殺総合対策大綱は、自殺を図った人の大多数は、うつ病などの精神疾患を発症していると指摘する。
 自殺予防には、精神疾患の早期発見、早期治療が重要とされる。
 「息子は心の病になっていたのだろう」と平神さん。ただ行康さんが受診した形跡はなかった。
 大綱は「わが国では精神疾患に対する偏見が強く、自殺を図った人が精神科を受診している例は少ない」と指摘し、偏見をなくす取り組みが必要としている。
 平神さんは「息子の死を生かすためにも自死(自殺)を減らすための活動をしたい」と思い続けている。
 悲劇から6年。前を向けたのは、同じ境遇の人が集まる「こころ・つむぎの会」との出合いがあったからだ。