2016/10/18 本紙掲載
精神科 密着 240時間
保護入院
患者説得1時間 妄想強く緊張ほぐす
 日付がもうすぐ変わろうとする深夜だった。他の医師が帰り、静まり返った医局内に携帯電話が鳴り響いた。
 姶良市の県立姶良病院。県内唯一の公立精神科病院だ。当直の堀切靖副院長(53)がメモを走らせる。状況を一通り聞くと「それなら入院が必要ですね」と返した。
 電話は警察署から。鹿児島市のフェリーターミナルで女性を保護した。「殺される」「死にたい」と意味不明の言動を繰り返しているという。
 堀切副院長は女性の父親の携帯電話番号を聞き、すぐにかけた。
午前1時すぎ、患者に医療保護入院の説明をする堀切靖副院長(右)=姶良市の県立姶良病院
 女性は千葉県在住の36歳。幻覚や妄想が出る統合失調症とアルコール依存症で、1カ月前まで都内の精神科病院に入院していた。
 数日前、「友人に会いに行く」と鹿児島へ向かったという。
 堀切副院長は事情を把握すると、「お父さんの同意という形で入院させていいですか」と了承を求めた。父親は同意した。
 「医療保護入院」の手続きだ。本人の同意がなくても家族らの同意があれば入院させることができる。
 精神科の患者は病気の認識がない場合があり強制的な入院が認められている。
 堀切副院長は早速、女性が入院していた病院に連絡を入れた。病状や服用薬を確認するためだ。
 警察署の電話から30分ほどたった午前0時すぎ、女性を乗せた警察車両が病院に着く。
 だがそこから時間がかかった。女性が車を降りようとしない。ようやく降りても病院に入ろうとしない。入っても診察室まで歩こうとしない。
 その間、「殺さないでください」「怖い」「助けてください」と叫び続ける。妄想に支配されていた。幻聴もあるようだ。ぶつぶつと独り言が続く。体を震わせ激しくおびえた。
 堀切副院長らの説得が続く。「誰も殺さないよ」「安心して」「診察しましょう」。看護師や警察官も必死だった。結局、到着してから診察室に入るまで1時間ほど要した。
 警察から一報が入った携帯電話は、精神科救急情報センター専用だ。
 センターは警察や消防からの要請に対応し、受け入れ病院を手配する。精神障害者が地域で暮らしやすい体制整備を進める県が、姶良病院に委託している。
 従来、日曜祝日、年末年始のみの対応だったが、昨秋から夜から翌朝まで一年中対応する体制に拡充した。この日は検討の末、姶良病院にそのまま受け入れた。
 3日後、女性は薬の効果かやや落ち着いた。千葉から駆けつけた母親と診察室で面会した。「ごめんね」。消え入るような声で謝った。
 翌日、母親に連れられ退院した。堀切副院長が書いた紹介状を持って都内の病院に行くという。
 こんなふうに、姶良病院が扱った時間外入院(午後5時~午前8時半)は9月だけで17件に上った。