2017/02/03 本紙掲載
地域の中で
長期入院越え
就労「夢のよう」 訓練に励み自立生活
 「塩こしょう、しましょうね」。調理訓練で豚肉を炒める女性の横に立ち、赤いバンダナをつけた永野京子さん(59)が優しく声をかける。
 伊佐市の自立訓練施設「サンライズ」。規則正しい生活を送り、1人暮らしできるように買い物や掃除、洗濯、調理を学ぶ。同じ敷地にある精神科の大口病院から退院し、入所する人が大半だ。
昼食後に施設スタッフと談笑する永野京子さん(中央)=伊佐市の自立訓練施設「サンライズ」
 永野さんは調理助手として週3日働くパート職員だ。調理訓練を手伝った後は、入所者の昼食作り。てきぱきと配膳をこなしていた。
 幻聴が激しく、大声で独り言を叫び、会話も支離滅裂…。そんな症状で2011年まで20年余り入院していたようには、とても見えない。
 大口病院は、長期入院患者の地域移行に力を入れてきた。取り組みの柱の一つがサンライズだ。
 入院医療から地域生活へ―。精神障害者の地域移行を促す国の改革ビジョンが打ち出された04年に開設した。運営する法人理事長の永田雅子医師(45)は「入院生活と地域生活には大きな落差がある。地域に定着するにはつなぎの施設が重要」と話す。
 障害者総合支援法に基づく宿泊型自立訓練施設は、県内にサンライズなど7カ所ある。
 サンライズは定員20人。原則2年以内に地域へ送り出す。再び入院を余儀なくされることもあるが、40年以上入院した女性が借家で1人暮らしできるようになった例もある。
 最近5年間では、約20人がグループホームなどへ地域移行を果たした。
 病院では、元入院患者が入院患者に対し地域生活の喜びや楽しさを語る機会をもうけ、退院意欲を喚起している。
 自分よりも長い入院期間の人が次々に退院していく―。永野さんら長期入院組にも「退院したい」という意識が芽生え、職員らも地域移行への思いを強くしていった。
 永野さんは入院中、妄想の影響か昼間でも布団を頭からかぶって寝ていることが多かった。しかし職員が粘り強く作業療法に誘い、編み物や紙のかご作りに没頭するようになる。作業中は大声の独り言も減った。
 サンライズに11年に入所し一歩ずつ成長を遂げた。野菜を切ったり米をといだり、好きな調理訓練を黙々とこなす。
 グループホームに移った後も、日中はサンライズに通い、訓練を続けた。パート職に採用され1年半。今は近くの職員寮から自転車や徒歩で通勤する。
 調理で味つけを間違うこともある。会話がかみ合わないこともある。「それでも施設スタッフが辛抱強く接してくれる」と感謝する。
 「ピアスタッフ」という立場で、同じ障害を抱える入所者らへの助言役も求められる。調理訓練の前日に入所女性のエプロンやバンダナを買いに同行した。「誰かに必要とされるのはうれしい」
 1月下旬の午後、入所者らがさまざまなテーマで話し合う会で、現状を語った。「私は働いて給料をもらう今の生活が夢のようです。皆さんも希望を持って頑張ってください」と目を輝かせた。
 最近、自分が仕事をする姿が写った写真とお金を包んで母親(84)に贈った。「親孝行ですね」と言うと、「エヘヘ」と照れくさそうに笑った。