2017/03/14 本紙掲載
働く+雇う
初採用
職場理解徐々に 声掛け重ね不安解消
 新しい職場での2年半ぶりの仕事と、初めての精神障害者雇用―。働く側、雇う側の双方にあった不安は和らいでいる。
 2月下旬、薩摩川内市教育委員会の教育総務課。嘱託職員の小原(こばる)宏さん(39)が、公文書ファイルの背につけるシールを丁寧に貼っていた。文書管理に必要な仕事の一つだ。
薩摩川内市教育委員会の教育総務課で働く小原宏さん(中央)
 パソコンでのデータ入力や各種申請書のチェック、文書発送も任される。「ここで働くようになり人生をもう一度やり直そうという気力がわいた」と表情は明るい。
 前職は国家公務員。28歳のとき、統合失調症とうつ病の症状が出る統合失調感情障害を発症した。精神科病院に入退院を繰り返した。
 2013年10月に退職し、地元の薩摩川内市に戻った。障害者の自立訓練施設や、鹿児島障害者職業能力開発校でリハビリに励んだ。そのかいあって16年4月、薩摩川内市に採用され今の職場に配属された。
 薩摩川内市は障害者23人を雇う。ただ15年度までの採用は身体障害者のみ。精神障害者は昨春2人採用したのが初めてだった。うち1人が小原さんだ。
 初採用について市総務課は「障害の種別ではなく個々の能力を見て判断した」と答える。とはいえ現場に不安がなかったわけではない。小原さんの上司である市教委教育総務課の鮫島芳文課長(57)は「接し方など初めは手探りだった」と打ち明ける。
 事前に配慮すべき点を本人に尋ねた。「コミュニケーションが苦手なのでその点を理解してほしい」という要望を課職員にも伝えた。孤立しないよう声掛けを欠かさないことも確認した。
 小原さんは服薬により症状は安定している。ただ病気による記憶障害があり指示を覚えることに不安があった。そのため口頭だけでなくメモでも渡してもらうようにした。
 シール貼りを終えた小原さんに隣の女性職員が「いつもありがとう」と声を掛ける。鮫島課長は「小原さんは職場に溶け込んでいる。精神障害に対する職場の理解も深まった」と話す。4月に契約を更新する見込みだ。
 精神障害者の雇用は増えている。16年の厚生労働省まとめでは、従業員50人以上の企業が雇う精神障害者は4万9千人(鹿児島県内299人)で、13年に比べ1.9倍。背景には障害者雇用を促す相次ぐ制度改正がある。
 法定雇用率は13年に0.2ポイント引き上げられた。従業員50人以上の企業は2%、国、地方公共団体は2.2~2.3%になった。15年には、未達成の場合に納付金の支払い義務がある対象企業が拡大された。
 精神障害者の地域移行が進む中、働く意欲のある人も増えた。15年度にハローワークに新規登録した精神障害者は全国で約8万人(県内1343人)。10年で4倍以上だ。
 ハローワークかごしま障害者援助部門の川端正剛主任指導官(59)は精神障害者の雇用が進む要因について「障害者雇用の需要が増える中、身体・知的障害者は既に雇われ求職者が頭打ち状態という側面もある」と指摘する。
 来春は改正障害者雇用促進法が施行される。法定雇用率の算定に新たに精神障害者を加えるため、法定雇用率がさらに引き上げられる見通しだ。
 企業側の精神障害者雇用対策は待ったなしだ。