2017/06/08 本紙掲載
笑顔の明日へ
脱・引きこもり
ネット交流 力に 痛み分かち合い前進
 精神障害のある人たちが働く鹿児島市のラグーナ出版で、福田智洋さん(37)は名刺作りに励む。1月から週3日の勤務。にこやかに話す姿からは、統合失調症などと診断され長く引きこもっていた影は想像できない。
職場で同僚と笑い合う福田智洋さん(中央)。人とのつながりが回復の力になる=鹿児島市のラグーナ出版
 17年前に体調を崩した。東京大学の3年生だった。講義で座っているのがつらい。周囲に笑われている、居場所がないと感じた。息苦しかった。
 アパートに引きこもる。誰かに監視されているように思え、カーテンを閉めた。光が入らないようにガラス窓にアルミホイルを張った。
 帰郷して療養し26歳で卒業、就職にこぎ着けた。だが心のバランスを崩す。通勤中に涙が止まらない。勤務中にトイレから出られない。半年で出社できなくなった。
 学校や職場など特定の環境で不安やゆううつな気分が高まる適応障害や、人前で恐怖感が増す社会不安障害、統合失調症と診断された。引きこもりは7年余りに及んだ。
 光が差したのは3年前だ。担当医が変わり、それまで以上に時間をかけて話を聞いてもらえた。「幻聴などの症状を詳しく伝えることができた」。統合失調症と双極性障害(そううつ病)の症状が出る統合失調感情障害と診断された。新しい薬が合ったのか気持ちに余裕が生まれ、「病気と向き合えるようになった」という。
 インターネットの短文投稿サイト・ツイッターで、病名を検索してみた。同じように苦しむ人たちがいた。勇気を振り絞りつぶやいた。名前も分からない人と少しずつつながっていった。
 「死にたい」「つらいよね。分かるよ」
 「元気な時ほど、その後ぐっと落ちていくのが怖い」「そうだよね」
 自分を理解してくれる人がネットの先にいた。「苦しんでいるのは自分だけじゃない。生きていていいんだ」と思えた。病を相談できるネット仲間が10人ほどに増えた。
 すると外に出て人と話したくなった。傾聴ボランティアを利用した。「悩みや苦しみを1時間じっくり聞いてもらい気持ちが軽くなった」という。その後、自らも傾聴ボランティアを務めた。
 今では精神障害者の集まりに積極参加する。福祉関係のイベントで数百人の聴衆を前に引きこもり体験を発表した。
 ネット空間の仲間が明日への道を開いてくれた。そして自らもブログを立ち上げ、体験をつづる。「絶望しかなく、一歩踏み出すのが怖かった。でも今は精神障害や引きこもりで苦しむ人の心を少しでも軽くしたい」と前を向く。
 大学院へ進みIT企業で活躍する―。ぼんやり描いていた未来とは異なるが、充実した日々を送る。「働く場所があって話をできる仲間がいる。それが一番幸せ」とほほ笑んだ。