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'07/06/15 本紙掲載 
県議選買収事件や統一地方選に関する南日本新聞の報道について意見を交わす第18回「読者と報道」委員会=5日、南日本新聞会館

県議選買収事件
名誉回復へ取り組め 大嵩氏
「筆の鈍り」検証必要 朝日氏
「疑惑」強めた見出し 山崎氏

 大嵩文雄委員 国家権力が介入する冤罪(えんざい)事件ほど怖いものはない。最終的に全員無罪の司法判断が下されて、一応の終止符は打たれた。だが、なぜ「踏み字」などの人権蹂躙(じゅうりん)が行われ、事件がでっちあげられたか。民主主義を揺るがす一大事件なのに、警察の対応は鮮明さを欠き、いまひとつすっきりしない。
 一連の南日本新聞の報道は、他社に後れをとったかなと思う部分もあるが、全般的に冷静で落ち着いていた。他社の記事には、判決前から捜査の違法性に対する自信が見て取れるものもあった。
 公権に立ち向かうのは報道メディアとして当然の責務だ。困難な取材環境の中で、どこまで書くか、難しい問題だが、腰が引けたら、公権に弱い、主体性に欠けたメディアだという烙印(らくいん)を押されかねない。
 実名報道の危険な落とし穴も見えた。火のない所に煙は立たずという疑心暗鬼があるなかでは、報道することで結果的に犯人視させてしまう。元被告らは、地域で非常に悲惨な状況に追いつめられていった。
 むろん社の取材方針で、記者は動くのだろう。連載「取材メモは問う」で、2003年の事件発覚当時の記者の苦悩が読み取れた。ただ、最終的に今年の判決で「無罪」というお墨付きを取った後に報道が活気づいた印象は否めない。
 課題は、警察発表のみに頼らない独自の取材体制をどう整えるか。県警が民主警察としてどう変わっていくか、点検する必要もある。4年という長きにわたり、犯人視され、人生の貴重な時間を喪失された方々の名誉回復につながる紙面作りにも取り組むべきだ。

 朝日吉太郎委員 連載「取材メモは問う」によれば、複数の記者が当初から警察の対応に違和感を覚えながら、警察寄りの報道を続けてきたのではないか。理由として、警察との慣れが生まれ感覚が鈍ったことが挙げられる。容疑者、接見者への取材の在り方も課題としている。
 私はそれらに加え、スクープ主義の弊害がなかったかを問いたい。警察情報をより速く報道するという、他社との競争関係の中で、じっくり時間をかけた取材ができず、警察発表をうのみにして報道する習慣ができあがる可能性がある。速報性も大事だが、読者をうならせるのは正確さや真実性、分析力だ。
 記者の苦労の軽重と容疑者の黒白とは全く違う次元の問題だ。疑いを持ちながら、なぜ筆を持つ手がしびれたのか。判決前に紙面化する工夫がもう少し必要だった。誰が何と言おうと真実を報道する姿勢、勇気がどうであったのか。社として再検証すべきだ。
 一方で、罵倒(ばとう)やどう喝、誘導による口裏合わせ、隔離、盗聴など違法行為のオンパレードというべき捜査が浮かび上がったのは、報道の成果だ。自白偏重に陥る捜査の問題も明らかになった。
 今後はそうしたものの背景にある、警察の組織文化を分析してほしい。専制的な組織運営がなされることに対し、批判者が排除され、不満のある者さえ無抵抗となる。組織体制の危うさを明らかにすることだ。
 日本の警察は、労働組合や外部チェック組織の整備を検討する時期にきている。こんな論点提起があってもいい。

 山崎美智子委員 2003年6月、中山さんが逮捕されたことを受けて地元の反応を取材した記事で、「やはり」「裏切り」という見出しが大きく出ていた。
 「取材メモは問う」には、容疑が濃厚であるという印象を読者に与える結果になったとの趣旨の記述があるが、本当にそうだ。見出しは怖い。いろんなイメージを印象づける危険性があるからだ。
 記事によると、記者は早い段階から県警の異変を感じ取っていた。「無理やりで恐ろしい捜査をしている」と聞いていた。ところが、事件の闇を感じた記者たちが積み重ねた取材ノートが日の目を見るのは無罪判決後であった。マスコミとして、警察、検察の暴走を食い止められなかったかと思う。
 私たちが実際、志布志事件の被疑者のような立場になったときは、一体誰を信じたらいいのか。そんな不安が一民間人として、わき上がってきた。
 12人の元被告は、捜査官、検察側からの心ある謝罪の言葉を求めているのではないのか。検察側の「検察官が職務上の義務に違反したとは思っていない」という言葉だけで、12人の方々が納得するはずもない。当事者であった前の県警本部長らから、本当の意味での謝罪の言葉を得る取材はできないものか。
 二度と冤罪が生まれないよう、取り調べの可視化に向けた動き、課題などを記事化してほしい。

 杉原洋報道本部長 事件に疑問を持ちながら、なぜもっと早く出せなかったのかということについては、記事は一方の言い分だけで書かない原則がある。両者の意見をつき合わせる中で、ためらいが生まれたのではないか。ただ、それは言い訳にしかすぎない。編集局内部で報道のあり方について十分議論があったのか、強く反省しなければならない。この事件に限らず、容疑者、接見者への取材努力は今後も続けていく。

 小田裕徳社会部長 犯行日時が明らかになったのは初公判から2年余りたった2005年7月だ。取材班はそれまでも足しげく志布志に通ったが、日時が特定されていないため、アリバイの確認ができなかった。早い段階で分かっていれば、裏取りもできたと悔やまれる。しかしそれから判決までは1年以上あったわけで、反省すべき点はいろいろとある。

 浜畑剛編集局長 県議選買収事件の報道について、いろんな批判があるのは承知している。事件や裁判の経緯は、報道基準に照らして行っており、間違った対応はしていないつもりだ。
 しかし、全員無罪が確定する時点まで、事態を予測し適切な対応をとれなかったのか、との思いはある。鹿児島でなぜこういう事件が起きたのか、そもそもの発端は何かなど、根本から事件を解明し、その中で新聞報道がどうだったかの検証や今後のあり方について真剣に考えていきたい。

被告12人全員の無罪判決を受け、喜ぶ支援者ら=2月23日、鹿児島地裁
 2003年4月の県議選曽於郡区で初当選した中山信一さん(62)の選挙運動で4回の買収会合があったとして13人が起訴された(1人は死亡)。捜査段階で6人が自白したが、公判で否認し、自白強要を訴えた。鹿児島地裁は07年2月23日、自白の信用性を退け、12人全員に無罪判決。3月10日に確定した。
 事件をめぐっては、取り調べを受けた志布志市の会社役員川畑幸夫さん(61)が、実父や孫の名前を書いた紙を捜査官から無理やり踏まされたとした「踏み字」訴訟で、県に賠償を命じる判決が確定している。
 南日本新聞は、3年8カ月の裁判報道と並行し、当時の捜査状況や冤罪を主張する被告らの訴えを逐次報道。
 今年1月から3月には、「『踏み字』断罪」「『買収』のシナリオ」「物証なき法廷」「『捜査暴走』の闇」「遅すぎた春」を連載して、事件の背景と冤罪を生み出す構造や、平穏な暮らしを奪われた元被告の苦悩を伝えた。
 また、5月には連載「取材メモは問う」で、事件に関する本紙の報道を検証した。

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