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シマッチュが、一番熱く燃える日~奄美の舟漕ぎ競争~

author: しらはま ゆみこ(更新日:2012年7月12日)

夕暮れの中の舟漕ぎ練習

舟漕ぎ練習のかけ声が、夕暮れの空に響き渡れば、奄美の夏は盛りを迎える【撮影/犬塚 政志】

夏を感じるシマの風景

奄美の夏。日差しが少しずつやわらぐ夕暮れ時になると、シマ(集落)の海岸には三々五々、人が集まってくる。仕事帰りにビールを飲む人、犬の散歩をする 人、ただ腰をおろしてぼーっとする人、ほてった体を冷ますように海に入り、パシャパシャと水浴びする人。誰もが、ちょっと過ごしやすくなった夏の夕方を楽しんでいる。

祭りのひと月前ぐらいからだろうか、そんなシマの海岸では、舟漕ぎ(ふなこぎ)の練習が始まる。板付け舟と呼ばれる小さな木の舟に、まずは子どもたちが乗り込む。シマの大人や親からの指示を受けながら、「ハイッ、ハイッ!」と声を合わせて一心不乱に漕いでいく。子どもが終わったら、次は大人たち。男性ばかりの漕ぎ手になると、そのかけ声はいっそう力強くなり、スピードも増していく。

この光景は、祭りの一週間前になれば毎日繰り返される。海岸へ歩いて30秒もかからないところに住んでいるわが家には、練習のかけ声が部屋にいながらにして聞こえてくるのだ。贅沢な、シマの音のある風景。舟漕ぎの練習の声を聞くと、奄美の夏をしみじみと実感する。

こんな気合いを入れて臨む舟漕ぎ競争、旧暦五月五日などに集落で楽しんだりするが、その一番の大舞台は、なんといっても夏祭り。島に住んで初めての年に、 瀬戸内町で開催される夏の「みなと祭り」の舟漕ぎを観に行った時には驚いた。「これだけの人がどこに隠れていたの?」と思うほど、会場の港はテントでぎっしり。歩くと肩がぶつかりそうなぐらいに人があふれていた。




力感溢れる舟漕ぎ姿

シンプルで奥深くて美しい。力強いかけ声とともに、ひと漕ぎひと漕ぎ前へ進む。この日のために磨き上げたチームワークが試される【撮影/しらはま ゆみこ】

町民総出の舟漕ぎ競争

昨年のみなと祭りでは、合計151チーム、のべ1057名が参加。人口約9900人のこの町で、これだけの人たちが参加していることが、シマッチュ(島の人)にとってどれだけ楽しみなイベントかを物語っている。応援者を含めたら、人口の半分ぐらい会場に来ているんじゃないだろうか?と思えるほどの盛り上がりをみせるのだ。

舟漕ぎ競争は、板付け舟に6人の漕ぎ手と1人の舵取りの計7人が乗りこみ、折り返しのある200mをひたすら漕いでその速さを競う(ルールは市町村で異なる)。シンプルなだけに奥が深く、7人の結束力と技術力、圧倒的な練習量がものをいう。速いチームになればなるほど、一糸乱れぬその漕ぎ姿は惚れ惚れするほど美しい。

女子対抗舟漕ぎ競争

女性も子どももシマッチュみんなが熱くなる舟漕ぎ【撮影/犬塚 政志】

瀬戸内町でユニークなのは、カテゴリー分け。子ども会対抗・集落対抗・同窓対抗・女子対抗・オープン対抗でそれぞれ競う。ちなみに内地(本土)だと聞き慣れない同窓とは、同級生のこと。奄美では挨拶がわりに「なんねんせい?」と質問される。これは「(昭和や平成)何年生まれ?」と聞いているのだ。生まれた時から、小中高とずっと一緒に過ごすことの多いシマッチュは、同級生同士の結束力がとても強く、お互いの関係も生まれ年が重要になってくる。同級生グループに名前をつけて、ふだんからバレーボールやソフトボールなど、さまざまなイベントに還暦を過ぎても楽しそうに参加している。「メェ~らんど30」なら昭和30年生まれの未年、「58man(ゴーヤーマン)」なら昭和58年生まれ、なんて具合だ。同窓グループによっては、自分たち専用の板付け舟を同窓会費で購入し、練習に臨んでいるチームもあると聞いた時には、舟漕ぎに対する気合いの入れように、ただただ感心するばかりだった。




熱い応援が選手を後押しする

選手も全力なら、応援も全力。弾むようなリズムと太陽に負けない熱気が会場を包み込む【撮影/しらはま ゆみこ】

三味線とチヂンのリズムに、シマッチュの血が騒ぐ

選手がこれだけ頑張るのだから、応援にも熱が入る。集落、会社仲間、同窓とそれぞれのチームで所有するテントを立て、そこは選手の家族などでいっぱい。BBQコンロを持ち込んだり、盛り皿をいっぱい並べたり。観るほうも、この日を何より楽しみにしているのだ。

予選から準決勝、決勝に進むにつれて、三味線と奄美の太鼓チヂンが鳴り響き、小気味よいハト笛(指笛)のリズムに乗せられて、応援もだんだんとヒートアップ。優勝すればチームは、ウイニングランならぬウイニング漕ぎをして、応援者のテントの前までやってくる。応援者も「よーし、六調(ろくちょう)踊るぞ~!」と、阿波踊りのように手をひらひらさせて激しいテンポで踊ったり、バンザイ三唱をして、みんなで喜びを分かち合うのだ。

ふだん「テゲテゲ(適当に)」とか、「よーりよーり(ゆっくりゆっくり)」なんて、何事にもおおらかなシマッチュが、これだけ舟漕ぎに熱狂するのは、海洋民族のDNAがなせる技なのだろうか。舟漕ぎに出るために、祭りに合わせて都会からわざわざ帰省してくる人もいるという。夏になると、漕ぎたくてうずうずしてくるらしい。

奄美まつりでの八月踊り

奄美まつりでの八月踊り【撮影/犬塚 政志】

優勝すれば賞金がもらえるだけでなく、舟漕ぎで優勝したというその事実は、島では何よりもカッコいい勲章なのかもしれない。舟漕ぎはまちがいなく、シマッチュが夏で一番熱く燃える日だ。

8月は奄美群島のあちこちで夏祭りが開催される。舟漕ぎだけでなく、相撲、パレード、シマ唄大会、八月踊り、そして花火と、奄美の文化がギュッと凝縮されていて島を満喫できる数日間。夏祭りに合わせて旅の日程を組むのも、奄美の楽しみかたかもしれない。青い海だけじゃない奄美が、そこにはある。(了)




しらはま ゆみこしらはまゆみこ

奄美大島在住、島ライター。 埼玉&大分育ち。大分でタウン誌の編集者として勤務してた時に、奄美へ転勤した友だちを訪ね初来島。気づけばその人と結婚し、2003年12月移住。島でも雑誌やガイドブックのライターをしたり、町役場で働いたこともあり。

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奄美が大好き!なわたしが、旬の奄美をご紹介

手島慎二さんあまみんちゅ[no.2]
手島慎二さん(奄美鶏飯と島料理の「鳥しん」代表取締役)

2011年の鹿児島県S-1グルメグランプリ(商店街グルメNo.1決定戦)の奄美大会を制した『奄美黒豚パパイヤ丼』(右写真)の発案者である手島さん。鶏飯に負けない名物を、と発案された『奄美黒豚パパイヤ丼』島黒豚にパパイヤ、もずく、田芋の茎…と奄美の自然が育む旨みをいっぱいに詰め込んだこの一品は、奄美の新名物として、7月11日から東京の東武百貨店で行われた物産展でも好評を博した。

手島さんが営むのは、奄美鶏飯(けいはん)と島料理の『鳥しん』。今年で創業21年、地元でもたくさんのファンを持つ鶏飯の名店だ。地元のみならず「鶏飯を通じて奄美を知ってもらいたい」と全国各地の物産展に出かけて行っては奄美をアピールしている。「最初は売れずに大赤字でしたが、今ではたくさんの人が鶏飯目当てにやってきてくれます」と継続の成果を笑顔で語る。

じっくり時間をかけて作るスープが決めての『鶏飯』

奄美の昔からの味付けを大切にしているが、そのベースになっているのが「おふくろの味」なのだそう。料理好きで、食料の乏しい時代にも子どもたちにおいしい料理をと、腕をふるってくれた母の思い出を胸に「これからも手間を惜しまず丁寧に作り続けていきます」。長寿の島が誇る滋味あふれる料理を訪ねてみたい。(2012年7月26日)


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DATA

奄美鶏飯と島料理の「鳥しん」

  • [住所]鹿児島県奄美市名瀬伊津部町12-6
  • [TEL]0997-53-6515
  • [営業時間]11:00~23:00
  • [定休]年中無休
  • [その他]鶏飯や山羊汁の全国発送も行っています
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