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奄美浪漫海道~カツオ漁に湧いた浜のざわめきが聞こえる~

author: 春野 洋治郎(更新日:2012年9月13日)

西古見の三連立神

思わず手を合わせてしまいたくなる、そんな神々しさをたたえた西古見の三連立神【写真提供:スリーウッズ 森 直弘】

神が立つ岩

ネリヤカナヤ…奄美の言葉で海の彼方にある楽園のことである。水平線の向こうに神の国があり、ここに住む神々は五穀豊穣をもたらしてくれるという。ガジュマルの木陰からエメラルドグリーンの海を見ていると、神々の国へ船出したい思いに駆られる。

でも、神はネリヤカナヤから島へやって来るのである。では、どこにお出ましになるのか。それは、きっと海中から空へと突き出た立神岩にちがいない。何の根拠もないのだが、いま自分がいる西古見の三連立神を見ていると、ますますその思いが強くなっていく。

三連立神と夕日

三連立神と夕日【写真提供:スリーウッズ 森直弘】

奄美大島最南端の瀬戸内町古仁屋から西へ走った。リアス式海岸特有のグネグネと曲がりアップダウンのある道が続く。左手には大島海峡が横たわり、対岸の加計呂麻島の緑が美しい。1時間ほどかけて最西端の集落・西古見に着いた。

ニテイヌ、ナハン、ウキと名付けられた海中からそそり立つ3つの岩は、実に華麗で神々しい。鹿児島に桜島、日本に富士山という絶対的圧倒的な魅力を秘めた自然のランドマークがあるにしても、この西古見の三連立神はどうだ!浪漫を溶かしこんだような大島海峡に端然とたたずむ姿に、思わず手を合わせてしまいたくなる。西古見の浜に白い鳥が降り立った。水際をピョンピョンと飛び跳ねてから、勢い良く西の青い空へと舞い上がった。




曽津高崎灯台

曽津高崎灯台を遠くに見ることができ、波風の侵食が作り上げる断崖絶壁の風景も楽しめるが、灯台までの道は立入禁止である【写真提供:スリーウッズ 森 直弘】

カツオで湧いた日々

鳥が飛び立った西へ向かうと、岬の突端に灯台が建っていた。曽津高崎(そっこうざき)灯台という。ここに来ると決まって思い出すのが、西古見はじめ周辺のシマがものすごい熱気につつまれた奄美カツオ漁草創期の物語である。

曽津高崎灯台は明治29年に竣工し、海の安全を守るとともに、海の宝をも恵んでくれた。灯台建設に関わった鹿児島県佐多出身の土持さんは、仲間と昼休みに弁当を広げた。眼下にはきらめく海。なにげに見つめていたが「おっ、ここはカツオが獲るっど」と叫んだ。魚影を見たのか、海の色、波、海上を舞う鳥などを目にしての直感だったのかはわからない。

曽津高崎灯台

曽津高崎灯台【写真提供:スリーウッズ 森 直弘】

灯台建設の仕事が終わると、土持さんは故郷の佐多に帰るや前田さんを誘い漁船を駆って、再び南の海へと戻ってきた。そして、西古見の近海で竿を振り出すと、釣れるわ、釣れるわの入れ食い状態。活きのいいカツオが、浜に並んだ。その様子を目にした地元の人は驚きとともに、我も我もと海へと繰り出した。大漁、大漁、船のへさきには大漁旗がなびき、男たちは意気揚々と甲板に立つ。西古見の浜では、万の祝(大漁祝)のために女たちがソーメンをゆで始める。カツオを船から揚げ終わると、浜じゅうに焼酎の匂いが立ちこめ、舞えや唄えの祝宴となるのだ。

ビールで足を洗う時代だったという記録も残っている。西古見にはヤンゴ(バーのような飲み屋)も3軒ほどあり、海に生きる男たちが毎夜気炎を上げた。私の個人的な話で恐縮だが、祖父の代までは漁師であった。同じ海でも北部九州にある有明海へ、魚を求めて朝暗いうちから出て行った。そうした漁師の血がかすかに流れていて、奄美のカツオ漁の話を聞くとアドレナリンが湧いてくる。しかし、いま西古見の浜に建つと、昔日のおもかげはなく、美しい浜に波が寄せては返すばかり。集落内もひっそりとして、石垣にガジュマルがからみつき、見上げれば空は高く、カツオならぬイワシ雲が流れている。




大熊漁港でのお魚祭り

奄美市名瀬の大熊漁港でのお魚祭り。宝勢丸でカツオがとれた合図ののぼりがはためく【撮影/犬塚 政志】

よみがえれ、栄光の日々

漁業は盛衰が激しい産業である。北の海のニシンだって、御殿が建つほど隆盛を極め、あれよあれよと寒村と化したところも多い。"兵どもが夢の跡"と言ってしまえばそれまでだが、こうした一次産業遺産というのは物語として語り継ぐしかないのだろうか。西古見にはカツオ漁発祥の地の石碑は建っているのだが、三連立神を眺めながら、往時に思いを馳せるしかない。

西古見がカツオで湧きに湧いた話を聞きつけ、加計呂麻島の芝、宇検村の屋鈍、大和村の今里、そして名瀬の大熊と奄美全域でカツオ漁が始まる。しかし、その多くが西古見と同じような運命をたどっていく。ただ、大熊だけはカツオ漁の伝統を今に守り続けている。大熊の港のそばに宝勢丸鰹生産組合があり、ここでは宝勢丸が獲った新鮮なカツオを刺身にして売っている。味もボリュウムも満点で、ひときれ口にすれば胃袋で海人の魂が踊る。

回遊魚であるカツオは、去年獲れたから今年もというわけにはいかない。一本釣りという、まさに魚と一対一で相まみえる漁は、絵になるし格好いい。しかし、格好だけでは生計は成り立たないのだ。獲る漁業から育てる漁業へ。もう、ずいぶん前から耳にしている言葉であるが、西古見の目の前の大島海峡ではクロマグロの養殖がさかんである。でっかいイケスで巨体をくねらせるクロマグロに、よみがえれ栄光の日々と願わずにはおれない。




春野 洋治郎(はるの ようじろう)春野洋治郎

1955年佐賀県生まれ。1980年から鹿児島市に住み広告物、出版物のライティングを手がける。近年は専門学校講師、e-ラーニング講師など教育分野の仕事も行っている。もともと南方系なのか奄美群島はじめ南の島々への憧れと好奇心が強い。

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奄美が大好き!なわたしが、旬の奄美をご紹介

松山竹一さんあまみんちゅ[no.4]
松山竹一さん(奄美きょら海工房・有限会社松山)

2010年の鹿児島県新加工食品コンクールで農産加工食品部門優秀賞を受賞した“あまみ黒糖ショコラ”。サトウキビ100%の純黒糖をビターチョコで包み、あまみ黒糖ショコラココアパウダーでコーティングした和と洋の甘さの競演が楽しめる人気商品となっている。「純黒糖にこだわった自慢のスイーツです」という松山さん。そのこだわりは自家農園でサトウキビを作るほどのもの。

大阪や神戸で洋菓子作りの修行をした後、奄美を中心に洋菓子店などを営んでいる。「子どもの頃食べることのできなかったからでしょうね。ケーキやお菓子に対する憧れはとても強かったです」と笑う。純黒糖に限らず、材料はできるだけ地元のものを使っていきたいのだとか。「そういう商品が売れることで、少しでも奄美の地場産業が活気づけば」と熱心に語る。

奄美きょら海工房

5年前にオープンしたレストラン「Frandor Cafe(フランドール・カフェ)」では、白いビーチと澄み切った奄美の海が一望できるロケーションで、希少価値の高い夜光貝など島の食材をふんだんに使った料理が楽しめる。島の名物・鶏飯をアレンジした“鶏飯ピザ”も人気。奄美をいっぱいに詰め込んだグルメとスイーツを楽しみたい。(2012年9月27日)


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DATA

奄美きょら海工房 & Frandor Cafe

  • [住所]鹿児島県奄美市笠利町用安フンニャト1254-1
  • [TEL]0997-63-2208
  • [営業時間]お土産コーナー 8:00~19:00
    レストラン 11:00~19:00(ラストオーダー18:30)
  • [定休]12月31日
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