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子どもも大人も、村人も旅人も。同じ夕陽を見る。

author: 小田島智美(更新日:2013年11月14日)

福木トンネル

福木のトンネルから。木陰は海からの風が通り抜ける【提供:大和村役場】

山あいの目映い宝石、国直との出会い

南国の濃い緑の匂いの立ちこめる山道。車の窓をびゅんびゅん流れる木々の合間から、ふいに山の麓の美しい集落が垣間見える。「あれは?」「国直(くになお)だよ」長い坂を下りながら目に飛び込んだのは、強く輝く青空に淡いグリーンがかった静かな海。聞こえる鳥の声。

12年前、大島紬の伝習生として奄美大島に住んでいた私と、たまたま遊びに来ていた主人の、初めての大和村・国直との出会いは正にセンセーショナル。メジャーな大浜海浜公園の少し先に、山と海両方の魅力が詰まった、こんな秘境のような場所があったなんて…。

陽に照らされ眩しい白砂の浜を歩いて、福木トンネルの木陰で目の前を悠々と飛ぶ大きな蝶と出会い、喫茶店でいただく摘みたての冷たいフレッシュミントティ。海岸の真ん中に沈む夕陽が見せてくれる、ダイナミックな空の色の移り変わり。仕事を終え、自然と集まる地元の人々の笑顔と、夜風の中、満天に輝く星々。カヌーで漕ぎ出た夜の海、オールの先で幻想的な光を放つ夜光虫。

国直海岸

自然に形成されたという白い砂浜。プライベートビーチの様な安らぎがある【提供:大和村役場】

その日見た美しいものは、記憶の引き出しに仕舞うにはあまりにもいっぱいで、五感が喜びですっかり緩んだ私は、波音を聞きながらすこんと眠りに落ちました。そして翌朝、夜明けと共に明るみ始めた海に入って見たものは…。

奥まで続く美しい珊瑚の道と、そこに群がる目にも鮮やかな魚たちでした。魚も朝ごはんだったのでしょうか「一度にこんなにたくさん?」という数。その活気はさながら、華やかな浴衣姿でお祭りの屋台に繰り出して、わいわい楽しんでいる人々のよう。シュノーケルひとつで水面に浮いている私は、まるで空からその景色を眺めているようで、「お邪魔します」と厳かな気持ちになったのでした。ここでは人間の方が、自然の営みやダイナミックさを傍から見せてもらう、そんな畏怖の気持ちを抱きながら。




ウミガメ

産卵のため上陸する親ガメ。村人もみんなで見守る【提供:大和村役場】

夏~命のドラマ、海ガメの赤ちゃん誕生!

家族を持ったとき、こんな豊かなところで子どもと時間を重ねられたら。その思いから12年後、私たちは東京を離れ、3人家族で国直に引っ越すというご縁をいただきました。

珊瑚は減ってしまったものの、海の美しさは健在です。殊更、亀の上陸、産卵数の多さは有名で、村人の意識も高く、みんなで保護活動に取り組んでいます。7月から始まる孵化の時期、わずかな光を頼りに海に戻って行く子ガメたちが、誤って民家側の光に反応してしまわないよう、街灯には子ガメが反応を示さない赤色のカバーが村人の手によってつけられます。

年に一度、8月に国直で開催される海ガメミーティングでは、主催者の方が最後に「今日はあの辺りで産まれているはず」という場所に案内してくれ、赤いライトの中、大人も子どもも固唾を飲んで見守ります。砂からひょこっと顔を出す子、パタパタと足を動かす元気な子、ひっくり返って、なかなか元に戻れない子。「頑張れ~!あと少し!」「隣からもう1匹出て来たよ!!」みんな既に気持ちはカメのお母さんです。カメの兄弟たちが無事に母なる海で波に乗って、元気に大きくなりますように…と祈る気持ちで応援します。

3歳の娘も、夜な夜な眠い目をこすりながら、一生懸命応援している様子。翌朝も娘の話題はカメで持ち切り。「赤ちゃん、小さかったね!」「頑張っていたね!」「今ごろ海を泳いでいるかな?」「いつかまた、国直に帰ってくるのかな?」命の誕生の瞬間を見守るという経験を通して、娘の中にも新たな優しい気持ちが芽生えたようでした。

国直では、昔から人々は自然との関わりを感じ、そして今も共に生きる営みを続けています。自分たちが暮らすすぐ近くの浜辺で起こった命のドラマは、私たち親子にとって初めての貴重な体験となり、自然と共に成長する喜びを与えてくれました。




豊年祭

豊年祭での奉納相撲。子どもも立派な化粧回しをつけて土俵入り【提供:大和村役場】

秋~受け継がれる奥深い文化「豊年祭」

国直では自然の素晴らしさもさることながら、伝統行事などを通して学ぶ文化の素晴らしさもあります。毎年旧暦の9月9日(クガツクンチ)に願立神事を行い、その週の日曜日にみんなで五穀豊穣をお祝いする一大イベントが「豊年祭」です。

前々から準備を進めますが、前日、大人たちは大忙し。設営や奉納相撲の土俵整備、お客様へお出しするお祝い膳の準備、そして余興のダンス(!)の練習も。子どもたちはそんな傍らで楽しく遊んでいます。夕方には、みんなで炊き出しの鶏飯をいただき前夜祭です。

八月踊り

陽が落ちてから始まる八月踊り。昔から伝わる伝統の唄と踊りは、老人会のみなさんがお手本【提供:大和村役場】

そして迎える豊年祭当日。集落の神社での神聖な奉納相撲の後、チヂン(奄美で祭事に使われる伝統的な太鼓)と掛け声に合わせて、国直の子どもから大人まで男性力士が続々と土俵入り。みんなが揃うと圧巻です。小さな子どももしっかりまわしを締めて、ハッケヨイ!一生懸命な姿に歓声が上がります。大人の相撲も迫力満点!力と力がぶつかり合う本気の勝負は、競技でもあり儀式でもあり、日本の“国技”の誇り高さが感じられ応援にも熱が入ります。お客様や敬老会のみなさんはお祝い膳を楽しみながら、子どもたちは回りで遊びながら、相撲の行方や余興で盛り上がります。余興のトリは婦人会のダンス!大盛り上がりで大成功です。

夕方、お客様も帰路につき片付けが一段落すると、ほっと一息、お祝い膳をみんなでいただきます。夕陽が国直海岸に沈み、夜になると伝統の「八月踊り」の始まりです。集落のみんなで輪になり、チヂンの音に合わせて唄い踊ります。若い世代に昔ながらの踊りと唄、掛け声のお手本を見せてくれるのは敬老会のみなさん。年長者から若者へ、大人から子どもへ受け継がれる、奥深い文化。集落一体となる行事を通して、すべての年代の人々がそれぞれの役割で喜びと達成感、笑顔をシェアする。そのことに私たち親子はいつも感動しています。




国直の夕べ

海に沈む素晴らしい夕陽を眺めながら。自然と浜辺には人が集まる【提供:大和村役場】

大人も子ども育まれ、旅人も憩う国直

奄美で、国直で。子どもと一緒に時を重ねるということは、自然と文化から親子で学ぶチャンスをたくさんいただくということだと感じています。

もちろん、自然は豊かで美しい面ばかりでなく、時には台風や豪雨災害など、厳しい面もたくさんあります。台風で荒れる恐ろしい海、かわいい魚が見られる静かで心地よい海、美味しい魚が釣れる恵みいっぱいの海、みんな同じ海の姿です。晴れの日が嬉しい反面、雨がたくさん降ると退屈でリスクもあります。だけど、そのバランスのおかげで、畑の野菜がいきいきと大きくなり、みんなが大好きな大和村のすももが美しくつやつやとした紫色に熟すのです。

親子で自然のサイクルを実感しながら、自然に対して謙虚な気持ちが生まれてくると痛感しています。また集落行事を通して、ひとつの大きな家族のように、全ての年代の人と関わり、大人も子どもも成長することができるのは大きな喜びです。

このような経験ができるのは、地元の人ばかりではありません。国直の民宿にお泊まりの方がイベントや行事を見学したり、参加したりすることも多々あります。集落のみなさんも温かく迎えて、毎年リピートで訪れる方もたくさんいらっしゃいます。

少しの期間でも、国直に住んだ感覚で毎晩夕日を眺めたり、地元のみなさんと浜辺で一緒にビールを飲んだり、子ども同士で陽が沈むまで一緒に遊んだり(すぐに仲良くなります)、そんな美しい海のある風景と日常に寄り添うような"旅"の経験が出来るのも魅力の一つです。

12年前のあの夏の日に、福木のトンネルの木陰から眺めた、輝く国直の海。その美しさと人々の笑顔がいつまでも続くことと、訪れる誰かの心の原風景として、いつまでも記憶に残ることを願いながら、今日も国直に感謝の気持ちでいっぱいです。




小田島智美(おだじまともみ)著者紹介

2012年夏に、東京から奄美大島大和村の国直へIターン、3歳の娘との3人家族。奄美市名瀬にて“ Atelier 裏庭” 主催。

公式HP:atelieruraniwa.tumblr.com

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奄美が大好き!なわたしが、旬の奄美をご紹介

川畑さおりさんあまみんちゅ[no.18]
川畑さおりさん(唄者・喜界町生涯学習課)

「見晴らしの良い公園や海岸でも、練習がてら唄ってますよ」と笑う川畑さおりさん。その明るい語り口からは、島唄そして音楽をこよなく愛する気持ちが伝わってくる。9歳で島唄を学び始め、国内の数々の大会で大賞やグランプリを受賞。奄美を代表する若手唄者のひとりに数えられている。

幼稚園の先生をしていたときは「先生の島唄が聞きたい」とせがまれるのが何よりうれしかったという。聞かせているうちに、子どもたちも覚えて、帰りの会の歌が島唄になることもしばしば。大会に出場すると聞いた子どもたちが神社にお参りしてくれたという、忘れられないエピソードも。

現在は、喜界町中央公民館に勤務し、学校や生涯学習の場で島唄の普及活動に従事。また、鹿児島県が進める奄美島唄保存伝承事業の委員として、それぞれの集落(シマ)で歌い継がれる島唄の収集にも携わる。事業へのやりがいとともに海に向かって唄う「知らなかった島唄との出会いも楽しみ」だと語る。

唄者として全国各地のイベントにも参加するが、音楽活動は島唄だけに留まらない。2012年全国リリースの『永遠の碧(あお)』は喜界島の美しさをイメージしたポップスで、先月まで日本エアコミューターの機内音楽としても親しまれた。今日も生まれ育った喜界島の碧い空や海に、川畑さんの澄んだ声が響き渡る。(2013年11月28日)

永遠の碧

DATA

永遠の碧

  • [リリース]2012年6月6日
  • [作曲]大森はじめ(東京スカパラダイスオーケストラ)
  • [作詞]磯谷佳江
  • [価格]1,000円(税込)
  • [収録曲]1.永遠の碧(えいえんのあお)/2.風の谷のナウシカ/3.むちゃ加那節-奄美民謡-
  • [ネット購入]喜界島特産品販売のけらじ屋
  • [ブログ]☆さおりんと喜界島、今☆
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