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語りたい!島のムンガタイ
民話の宝庫、沖永良部島

author: 市來 美穂(更新日:2015年6月11日)

「人食い猫」が出現したと伝説される笠石海岸のトゥール墓跡(和泊町喜美留)

奥深い島の民話

「それじゃ、昔ばなしをするよ。みんなもよく知っている笠石の話。笠石公園に古いお墓があるんだけど、そこに昔むかし、死んだ人を食らう大きな猫がいたんだって。」

とある日のわが職場、内城小図書室。筆者がこう語り始めると、やんちゃ盛りの男子たちがしんと静まり、ムンガタイ(物語)の世界に引き込まれていく。故人の亡骸(なきがら)を食らって牛ほどに巨大化した人食い猫と、人々のため猫退治に立ち上がる一人の男の物語だ。人食い猫と男との息詰まる攻防では、語り手の筆者も自然と熱が入って身振り手振りが加わり、子どもたちも身を乗り出す。語り終わるや口々に感想を述べあったり、謎解きを始めたりする子どもたち。民話の魅力を余すところなく味わうその姿は、いつ見ても心があたたまる。

この民話は、和泊町喜美留の笠石海岸を舞台としたもの。明治期まで使われたトゥール墓がなぜ廃れ、埋葬型の墓地へと移行したのかを伝えるムンガタイだ。

トゥール墓の完成形とも言える史跡・世之主の墓(和泊町内城)。観光客も多く足を運ぶ

トゥール墓とは、崖下の自然または人工の洞穴を利用した古い形態の墓のこと。史跡である世之主の墓も、トゥール墓のひとつだ。遺体は洞穴に安置されたあと、数年経って骨化したのち甕(かめ)に収め直す「改葬」が行われていたといい、いまもその跡は島内各所に残っている。

史実としては、明治初期にトゥール墓を利用した従来の葬制が公衆衛生と因習改革のため禁止されたことが、トゥール墓衰退の直接的原因だったようだ。それ以降、藩政時代にはすでに島に移入、一部定着していたらしい薩摩式の墓石・埋葬型が主流となっていったと考えられている。

しかしムンガタイの世界では、人々をトゥール墓から遠ざける脅威として遺体を食らう猫を出現させている。この民話が誕生した経緯は知るよしもないが、愛しい家族を見送る方法を大きく転換せざるを得なくなったとき、このようなムンガタイを流布することで島の人々の心を納得させようとした人がいたのかもしれない。

時に、こうして島が辿った歴史の一端にまで思いを馳せさせる民話。その奥深さに、改めて魅せられている。




エラブ民話の会ゆみあぐが主催したクリスマスおはなし会で、ヌンギバナシを披露する故・川上忠志さん(写真右)=2013年12月、和泊町

民話語りを次代へ

沖永良部島は、冒頭で紹介したような民話が数多く残るムンガタイの宝庫だ。島の歴史文化を掘り下げた新旧の書物を開けば、たくさんのムンガタイに出会うことができるし、いくつかは絵本として出版されてもいる。『月の中の一本足の娘』『天人女房』(ともに南方新社)の2冊は、図書室でも人気だ。

だが、生の語りを味わえる機会は、驚くほど少ない。

民話は言うまでもなく、口伝えで残されてきた無形文化財ともいえるもので、「語る」という行為を伴ってこそ真価を発揮する。島の宝物を、生の語りを通して子どもたちに伝えていきたい…。そんな思いを共有する仲間が集まり、数年前に発足したのが、筆者も所属している「エラブ民話の会ゆみあぐ」だ。

立場は違えど、みな昔ばなしが大好き、子どもたちにお話を聞かせるのはもっと大好き、というメンバー。実際に親や祖父母から島の昔ばなしを聞いて育った人もいれば、筆者のようなIターン者もいる。

これまで、島外から民話の語り手を招いた講演会を主催し、その魅力を地域に広める活動を続けてきた。あわせて、自分たちが語り手となった「おはなし会」も開いている。

沖永良部島民話をもとにした絵本『月の中の一本足の娘』『天人女房』

2年前のクリスマスおはなし会は、ヌンギバナシ(怖い話)がテーマ。永遠の「鉄板ネタ」だけあって、まあ出てくるわ、出てくるわ。自分自身や知人の体験談から、悲劇の王・世之主にまつわる説話まで、聴衆を飽きさせない語りが続いた。

中でも、島のヌンギドゥクル(怖い場所)に詳しい川上忠志さんの語りは、思い出すだに面白い。トゥール墓を、そうとは知らず潰してしまったがために、祟りにあった実例(!)を紹介しながらも、川上さんは、じっと聞き入る子らにこう語った。

「なにも怖がることはありません。トゥール墓にいるのは、自分たちの大切な祖先なんです。ただルールを守ればいいだけ。怖いといわれている場所は、神聖な場所ということ。穢(けが)してはいけません、迷惑をかけてはいけません」

ヌンギバナシという形をとって、島びとが伝えてきた「大切なこと」。それを優しく説いて聞かせた川上さんも、すでに鬼籍の人となった。大得意とするヌンギバナシを子どもたちに思う存分語って聞かせたのは、おそらく最後の機会ではなかったか。沖永良部島はまた一人、得難い語り手を失った。




民話の語り手を招いた「語り講演」に聞き入る児童=2014年6月、内城小図書室

アガリトゥーサ、イートゥーサ

島の先輩である先田光演さん(えらぶ郷土研会会長)に聞いたところ、沖永良部島では、昔ばなしの語り出しは「ムカシ、アタヌヨーシ」、語りの締めくくりは「アガリトゥーサ、イートゥーサ」であるという。

「ムカシ、アタヌヨーシ」は字面でおおよそ見当がつくだろうが、「昔、あったそうな」という意味。「アガリトゥーサ、イートゥーサ」は、直訳すると「東は遠い、西も遠い」となる。

これについて先田さんは、「アガリトゥーサはもともと『あったとさ』が転訛した『アリトゥーサ』だったものが、言葉あそびとして『アガリ(東)トゥーサ(遠い)』となり、さらに東があるなら西も加えようということで『アガリトゥーサ、イートゥーサ』の重ね言葉となったのでは」と解釈している。名もない昔の島びとは、それほど言葉に対する豊かな感覚を持っていたのではないか、と。

私のような素人に解釈の真偽は分からないが、島の民話に触れていると、島びとたちのたくましい想像力と驚くべき創造性を確かに感じる。それが民話をエンターテイメントとして成立させ、何世代にもわたって今に伝えられてきた原動力となったのだろう。

「ゆみあぐ」が掲げる最大の目標は、民話の掘り起し・語り継ぎだ。古い民話をよく知る人々がみな高齢となり、いやでも「制限時間」という言葉が脳内をかすめる。しかし、肩に余計な力は入れず、民話を通して、ただただ人の悲しさや可笑しみ、素晴らしさを子どもたちと共有できればと思う。

こんなに偉そうに書いてきたけれど、最後に白状すると、私が語ることのできるエラブの民話は、いま現在たったの二つ!その道のりの、なんと遠いことか…。いつか、「アガリトゥーサ、イートゥーサ」の言葉を格好よく語れる語り手になりたいものだ。




市來 美穂(いちき・みほ)著者紹介

1975年千葉県生まれ。大学卒業後に奄美群島の地元紙に就職、奄美大島と沖永良部島で9年半にわたり記者として活動。退職後、エラブに嫁ぎ、現在は和泊町立内城小学校の司書補として子どもたちに読書・言語表現の楽しさを伝える日々。

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奄美が大好き!なわたしが、旬の奄美をご紹介

あまみんちゅあまみんちゅ[no.37]
林 花穂さん(型染め工房BIROUオーナー・奄美市名瀬浦上)

アカショウビン、ブーゲンビリアなど奄美の動植物をモチーフにした型染め教室を開いている。初心者や子どもも手軽に楽しめて、南国らしい色彩とモチーフが人気だ。工房では普段は大島紬に絵付けをする染色を行っている。友禅のような手法で、筆と刷毛を使って大島紬に絵を描くように染め付け、訪問着や振り袖を制作している。「絵羽(えば)」という模様で、古典柄のほか奄美の動植物もあり、広げるとまるで一枚の絵画のような華やかさ。亡父が京都へ修行に行き、試行錯誤して作りあげたものという。

奄美市出身で高校卒業後、2年ほど大阪に住んだ後、島が恋しくなり帰郷。実家の染色業を手伝った。奄美では染色と言うと、泥染や藍染など浸染が主流。筆を用いた染色の面白さも伝えられたらと、琉球紅型やステンシルを参考に独学で型染めの手法を学び、3年ほど前から体験教室を始めた。

あまみんちゅサブ

幼い頃、父がよく写生に連れて行ってくれた。それに、野イチゴ摘み、川遊び、土手を掘って作った秘密基地…。ハブも怖がらずによく遊んだ。校区内の浜で友達と泳いだ。その浜に落ちる夕日がとてもきれいだった。自然から想像する力を養ってもらっていたと感じる。今も身近な風景の撮影やスケッチ、家族や友達との会話から創作のヒントを得ている。

「奄美の夏=海」という人も多いが、林さんは森(山)を薦める。ひんやりとしたマイナスイオンたっぷりの空気が暑さを忘れさせてくれる。「車のクーラーを切って窓を開けてみるとグッと気温が変わるのに気づくと思います。金作原(きんさくばる)や龍郷の森では多くの渡り鳥や南国特有の植物も観察でき、山深く分け入るほどにアニミズムが息づくもう一つの奄美に触れることができるのではないでしょうか(ハブには注意です)」。

手軽に夕日を楽しめる場所として大浜海浜公園もオススメ。夕涼みにしまんちゅも多く訪れる癒やしのスポットの一つだ。

あまみんちゅメイン

DATA

「奄美*型染め体験教室」

  • 誰でも簡単に楽しめる筆と型を使った染色体験。初めての方でもコツを学び、練習してから染めるので安心。色鮮やかな奄美の動植物などたくさんある型から好きな柄を選んで染められる。奄美市のゆるキャラ「コクトくん」のトートバッグが人気。少人数制(1~4人まで)。要予約。

    ▽平日・土 午前10時~午後5時の2時間半(日・祝はご相談を)

    ▽体験料 3000円(材料費込み)

    ※トートバッグ・Tシャツ・パネル等。持ち込みも可、ただし料金は同じ。

    [店舗情報] 型染め工房BIROU(びろう)
    <住所> 奄美市名瀬浦上45-11
    <電話> 090-5287-6115(林)
    <営業時間> 午前9時~午後5時
    <定休日> 日曜日
    <ブログ> http://hanairo.amamin.jp/
    <メール>hana.0108.flower@gmail.com
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