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月とメッセージ・イン・ア・ボトル

author: 三谷 晶子(更新日:2016年05月12日)

家の目の前の浜に打ち寄せる波

家の目の前の浜に打ち寄せる波

雪降る町

amamiとはイタリア語で「私を愛して」という意味であると、先日聞いた。instagramでは、イタリアの時刻帯の夜になると#amamiのハッシュタグがよく見られるそうだ。
「私を愛して」
 深夜、眠れない時。インターネットの中で「私を愛して」と呟く気持ちが、私にも、よくわかる。

2012年、1月15日。東京に大雪が降り、新宿駅から羽田空港に向かうバスは欠航していた。電車の時間を改めて調べ、重いトランクをコンクリートに残る雪の上で引きずりながら、空港に向かう。失恋して、家をなくして、南の島に行くなんて、まるでよくある小説のようだ、と他人事のように思いながら。

黄金色におおきく光り沈む夕陽

黄金色におおきく光り沈む夕陽

加計呂麻島に来たきっかけは、友人のFacebookの投稿だった。島にある海塩工房が、住み込みのお手伝いを探しているという。期間は一ヶ月ほど。手伝いの内容は、家事や掃除、商品のラベル張りなどちょっとしたもので、空いた時間は自由にしてよい。何でもいいし、どこでもいい。ただ、どこかに行きたかった。

奄美空港に着いてすぐ、コートとマフラーと分厚いタイツを脱いで、トランクにしまった。雪の中を四苦八苦してトランクを転がしてきた先ほどとは打って変わって、気温は20℃近い。東京の冬の空気で乾燥した頬に、ミストのように水気を含んだ空気が当たる。塗っているモイストタイプのファンデーションが肌に重く感じられて、さっきタイツを脱いだ時に化粧室で落としてしまえばよかった、と思う。

空港からバスに乗ると、車窓からこんもりと木々が茂った山が見えた。ああ、海水が蒸発して、雲ができて、雨になって、それを吸い込んでまた木々が水蒸気を放つんだな。小学校の理科で習うようなごく当たり前のことを、私は今まで考えたこともなかった。



湾になっているビーチはいつも凪いでいる

湾になっているビーチはいつも凪いでいる

夜の手紙

このように、私が加計呂麻島に来たいきさつは、行く先を考えることもできずに交差点に立ち尽くしていた時、たまたま目の前に来た車に乗ったようなものだ。島に行くと決めた時、東京の友人たちがずいぶん驚いていたことを思い出す。たしかに今振り返ると、突拍子もない行動だ。けれど、もしかしたら、その時の私は、雑踏の中でタクシーを止める時のように手をあげていたのかもしれない、と思う。誰か、ここから、連れ出して。そして、誰か、私を愛して、と。

その誰かは、いったい誰なのだろうか。答えは、加計呂麻島に住み始めて間もなくわかった。加計呂麻島は、山も海も美しく、昔ながらの人々の営みが残っていてすばらしい場所だ。だからこそ、ノイズのない問いかけが自らのうちに訪れる。

道端で見つけたハート型の葉っぱ

道端で見つけたハート型の葉っぱ

私が愛してほしかったのは、誰かではなかった。
 私は、私自身を、愛したかった。

加計呂麻島に来て数年、私は、ずっと自分に問いかけていた。

私は、私を、愛せるのだろうか?

その問いを発すると、波に少しずつ削られていく砂に足をとられるように、心もとなくなった。時折、浮かび上がる亡霊に足を取られてそのまま深い海溝のふちに沈んでいくかのようにも、思えた。

インターネットは、海に似ている。どこまでが海なのか空なのかもわからない、夜の、茫漠とした海に似ている。
 真夜中に、「私を愛して」とインターネット上でつぶやく人々も、もしかしたら、暗い海に手紙の入った瓶を投げ込むような気持ちなのかもしれない。
 誰かに読まれたいのか、読まれたいのか、それすらわからない。けれど、それでも何かへの、どこかへの、一縷の望みを託して。



波を眺めていると心が落ち着きます

波を眺めていると心が落ち着きます

青い鳥、月の浜

平屋の家々が立ち並ぶ集落は、裏手に山が迫り、同時に海もすぐ傍らにある。でいご並木から吹く風は、生垣を通り抜けハイビスカスの花を揺らし、私が原稿を書く部屋の中を通り抜けていく。どこからか、三線の音が流れてくる。音色が聞こえるようになったのは最近だ。近所の子どもが練習を始めたのかもしれない。

私の住む家は、保育所が近い。夕方になると、子どもたちを迎えにきた母親の声が聞こえてくる。昼の光が薄くなり、空気に含まれた水気が少し冷たくなっている。窓から差し込む日差しが、傾きながら色を変えていく。私が、私を、愛そうと愛すまいと変わらずに。

六時のチャイムでパソコンから顔を上げると、波の音が、いつもよりも近くに聞こえた。そういえば、今日は大潮で満月だ。部屋の窓から空を仰ぎ、月が見えるのを確かめて、浜辺に出た。

立ち尽くしていた時に目の前に来た車に何も考えずに乗るようにして、ここまで来た。真夜中の海に読まれる宛もない手紙入りの瓶を流すようにして、自分に問いかけた。

そして、私は真夜中の浜辺にいる。砕けた珊瑚でできた白砂の、穏やかな波が打ち寄せるビーチに。

甘く色づく夕暮れの浜

甘く色づく夕暮れの浜

先日、島の住人から、瓶に入った手紙を拾ったと聞いた。ところが、その瓶はすぐ近くの島から流れ着いたものだったという。
 童話の「青い鳥」みたいだね、と私は言った。そういえば、青い鳥、ルリカケスが島にはいるね、と。

島の月は、砂浜に影を作るほどに明るい。iPhoneで写真を撮り、instagramのアプリケーションを開く。ルリカケスがひょう、と、一声鳴く。凪いだ海に満月が映る写真をアップロードして、文字を打った。

「今夜は満月」

ハッシュタグはもちろん、#amami。

「私を愛して」というつぶやく誰もに等しく、青い鳥は鳴き、海と月は満ちている。






三谷 晶子(みたに・あきこ)著者紹介

作家。東京都出身。2012年1月より奄美群島・加計呂麻島に住む。著作に『ろくでなし6TEEN』(小学館)、『腹黒い11人の女』(yours-store)など。 Akiko Mitani Ameba Ownd

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奄美が大好き!なわたしが、旬の奄美をご紹介

あまみんちゅあまみんちゅ[no.48]
野崎 梨乃さん(奄美の自然のエステ)

奄美市内でエステ店を営んでいる。1980年生まれの奄美市名瀬出身。奄美高校を卒業し、東京で5年間気功エステを学び、結婚を機に帰郷した。奄美のヨモギやドクダミ、ショウガ、オオバコなどハーブを組み合わせたオイルマッサージや奄美の塩を使用したマッサージが人気で今年、開業11年目を迎える。

あまみんちゅサブ

子どものころは、キノボリトカゲを捕まえたり、山に入りハブを探し回るなど奄美の自然に慣れ親しんできた。そんな奄美を「女神の島」と表現する。姉妹が兄弟を霊的に加護するという「姉妹(ウナリ)神信仰」や「アンマとジュウ(母父)」「トゥジウトゥ(妻夫)」など女性を先にする呼称、女性の音階に男性が合わせる日本でも珍しい女性音階の島唄など、女性を尊重する奄美の文化や風習、女性の精神性や霊性を今に伝える伝統文化を「誇りとして大切にしていきたい」と話す。

奄美を愛する野崎さんのおすすめ観光スポットは、霊山ともいわれる湯湾岳の中腹にあるマテリヤの滝。奄美市内から車で約1時間のところにある。昔の人々が滝つぼに映る太陽の影を見て「マ・テダ・ヌ・コモリ(本当に美しい太陽の滝つぼ)」とたたえたのが名前の由来とされており、地元でも人気の景勝地だ。

「奄美はとてもスピリチュアルな島。さまざまなパワースポットがあるので、奄美と独特の雰囲気を味わってください」と呼び掛ける。

DATA

奄美の自然のエステ

  • 全身マッサージ(60分)5000円
  • 全身塩マッサージ(70分)7000円
  • 美顔+ヘッドマッサージ(50分)4000円

  • [住所]奄美市名瀬市小浜町7-8 田中絹織物ビル303
  • [電話]0997(53)3707
  • [営業時間]午前10時~午後8時(完全予約制、水曜休)
  • [HP]http://www3.synapse.ne.jp/amami-esthe/
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