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私の肩を押してくれた奄美

author: 高橋 由美子(更新日:2016年06月09日)

歴史を感じる永田橋市場の入り口

歴史を感じる永田橋市場の入り口

南の島でカフェ開業

それは、まったくの偶然だった。3年前の夏、喜界島に住んでいる同級生に会うついでに訪れた奄美大島。旅行中、奄美市名瀬にある川沿いの古びた建物で、ふと足を止めた。錆の入った「永田橋市場」の文字。中に入ってみると、そこだけ時間が止まっているような、独特な雰囲気に心を奪われた。

市場は空き店舗が目立つ。お店の人に家賃を聞くと、なんと月1万円だという。いつか南の島でカフェをやりたいと思っていた私は「この島に移り住んでお店を始めよう」と、その場で心を決めた。

一度群馬に戻り、荷物と大切な焙煎機を車に乗せ、フェリーで奄美大島にやってきた。だが私には、奄美に特別なツテもなかったし、知り合いもいなかった。ウィークリーマンションに寝泊まりしながら、不動産屋を回って住む家を見つけた。そして、市場の大家さんに連絡をする。が、貸さないと言われてしまう。

市場に昔からある精肉店と惣菜店

市場に昔からある精肉店と惣菜店

何度も何度もお願いして、ようやく貸してもらえることになった。ついに私は、南の島でカフェを開くことになったのだ。

市場には、2坪のスペースが20区画ある。当時、その中で営業していたのは、精肉店、惣菜店など3軒だけ。他の空き店舗は、段ボールやゴミであふれかえっていた。

「まずは市場を綺麗にしよう!」。大屋さんに許可をもらい、一人でお店や回りのゴミなどを片付け始めた。それを見ていた市場の人も手伝ってくれた。おかげで、ゴミだらけだった市場はぐーんと綺麗になった。

昔のなごりがある、魚屋の窓ガラス

昔のなごりがある、魚屋の窓ガラス

「お店の改装工事はどうしよう?」と考えていたら、市場に偶然大工さんがいた。話をしたら、快く引き受けてくれた。

「市場の雰囲気に合わせて、レトロで落ち着いたお店にしよう!」。工事の途中、島のあちこちのお店に看板やインテリアを探しに行くが、イメージに合った物が見つからない。「それなら自分で作ってしまおう!」

私は海へ行き、流木や貝殻を拾い集め、看板やインテリアを制作した。自然の物は暖かみがあり個性的で面白い。離島では、何もかもが手に入らないから「どうしよう?」と頭を使う。

便利過ぎる事よりも、ちょっと不便な方が良いのかもしれない。

思うように工事が進まず、完成するまでに2カ月もかかってしまった。ようやく、2013年12月27日、念願だった私のカフェ「自家焙煎珈琲こん日和(にちわ)」がオープンした。



2016年6月、現在の市場の様子

2016年6月、現在の市場の様子

永田橋市場の活気再び!

昔ながらの奄美らしさが残る永田橋市場は、戦後永田川に柱を建てて小屋が軒を連ねたのが始まりだと聞いた。1968年に現在の建物に移り、「市民の台所」として賑わいをみせていた。

しかし、平成10年に隣接していたスーパーが撤退した頃から、人の足も遠のいてしまい、市場の店は惣菜店や精肉店など3軒だけになり、往事の活気は無くなっていた。

ナリムチを手作りするおばあちゃん

ナリムチを手作りするおばあちゃん

永田橋市場を訪れる人に話を聞いてみた。

昔の市場は、乾物屋や八百屋、魚屋、豚肉屋などありとあらゆる食材が並んでいて、市場の中へ入るとさまざまな食材の香りがした。市場へ来たら何でもそろって、多くの買い物客でにぎわっていた。その頃は大島紬の生産も全盛期で、島全体の景気も良かったそうだ。

「子供の頃に母と良く来たよ、懐かしい。」「廃れていた市場を見て悲しく思っていたが、活気が戻って嬉しい」。奄美大島の人にとって、永田橋市場はたくさんの思い出が詰まった、懐かしい場所のようだ。

店がわずか3軒だけだった永田橋市場は、あっという間にショップや飲食店の開店が相次ぎ、ほとんどの店舗が埋まった。地元の人や観光客など市場を訪れる人も増え、にぎわいを取り戻しつつある。

奄美大島では毎年1月14日、豊作と家内安全を祈願して、色のついた餅を小枝に刺して家に飾る「ナリムチ」の行事がある。その季節になると、市場の前では島のおばちゃんがナリムチを手作りして売っている。

市場周辺には、まだまだ島らしい光景も残っているのだ。



「こん日和」でくつろぐ人たち

「こん日和」でくつろぐ人たち

古い市場には新鮮な珈琲が似合う

一杯のコーヒーを、ゆっくり安心しておいしく飲んでもらいたい…。 生豆を丁寧にハンドピックして悪い豆を取り除き、直火式小型焙煎機で毎日焙煎する。その日の天気、気温、湿度で、焙煎の方法を少しずつ変えながら、その豆のもつ美味しさを最大限に引き出す焙煎を心がけている。

砂糖もミルクも要らない、みんなが笑顔になれる美味しいコーヒーを作りたい。販売用は、焙煎後1週間以内の新鮮な珈琲豆を並べている。多い日には、焙煎機を10回以上も回し続ける。

焙煎していると「市場の外までコーヒーの香りがして」と、散歩中にふらりと立ち寄ってくださる人もいる。

心を込めて豆を焙煎しコーヒーをたてています

心を込めて豆を焙煎しコーヒーをたてています

コーヒーには不思議な力があると思う。くつろぎの時間、美味しいコーヒーは人を幸せな気持ちにさせる。カフェは人とのつながりをつくり、良いカフェがある街を人は好きになる。私はそう信じている。

観光で永田橋市場を訪れる人からは「昭和風情がある」「歩いていたら、古い建物が見えたから気になって来た」「落ち着く」など言われる。私も初めて観光でここを訪れた時、同じ事を感じた。

昭和風情が残る市場はおもしろい。古い建物がどんどん取り壊されて行く中で、昔からある古い市場はずっと変わらない。誰かにとってほっとする場所なんだと思う。

色々な事があったけど、温かい島の人々に支えられ、おかげさまで開店から2年7ヵ月がたった。

自分のお店を持つことは、私にとって長年の夢だったが、旅行中にどことなく興味をひかれた永田橋市場を歩いてみた事がきっかけで、人生が一歩前進した。奄美との出会いが、私の肩を押してくれた。

奄美大島に移住して、この場所で珈琲屋がやれて本当によかった。






高橋 由美子(たかはし・ゆみこ)著者紹介

1983年、群馬県生まれ。東京の珈琲サイフォン(株)で焙煎や抽出技術を学び、コーノ式珈琲認定コーヒーアドバイザー取得。2010年ごろから自宅で焙煎、豆販売を始める。「自家焙煎珈琲 こん日和」店主、焙煎士。http://konnichiwa.amamin.jp/

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奄美が大好き!なわたしが、旬の奄美をご紹介

あまみんちゅあまみんちゅ[no.49]
徳田 公一さん(タートルベイ醸造代表)

「徳之島から全県制覇を狙っています!」と語るタートルベイ醸造代表の徳田公一さん。徳之島の特産品を生かしたサトウキビ酢サイダー製造からスタート、商談会で出会った全国の農家や地域おこしNPOから依頼を受け、天文館はちみつサイダー、愛媛県・柚子コーラ、山形県・日本海の塩サイダーなど19県分を製造している。各地の特産品と炭酸で面白い「化学反応」が起きるのではないかと、日々新たな味の開発に余念がない。徳之島町亀津生まれ。東京都立大学理学部卒業後、外資系製薬関係の商社に18年勤務。2005年にUターンして起業した。東京農大・醸造学科の社会人コースでも半年間学び、キビ酢醸造から始め、全国でも少ないサイダー製造業として鹿児島県のオンリーワン企業にも認定された。

もうすぐ夏本番を迎える奄美群島。海水浴場やダイビングスポットに恵まれている奄美群島の中でも、古里・徳之島の海の美しさは言い尽くせない。「畦プリンスビーチ海浜公園」は白い砂浜が1.5キロ ほど続き、浅瀬でもサンゴ礁を見ることができる。海水浴場・キャンプ場もある人気の公園だ。「シュノーケリングなどで海に入ると、魚が周囲に寄ってきて、間近で見ることができます」。

あまみんちゅサブ

幼い頃はテレビのチャンネルは少なく、インターネットもなかったが、目の前に広がる海の向こうへ思いを馳せ、学生時代は欧州を放浪し、その後も30カ国ほどを旅した。海外へ憧れる思いは古里の海が導いてくれたと実感する。近年、格安航空会社(LCC)が奄美に就航し、世界自然遺産登録に向けての活動も広がる一方、過疎化や貧困問題など課題もある。「“奄美”が注目を集めていますが、奄美大島以外の島にもその恩恵が届くように何か工夫が必要」と訴える。そんな思いから、島の子どもたちに島外・海外へも目を向けて一歩を進んでほしいとALTの先生方と共に英会話教室サークルで活動中。「外から見る目も育んで、島に眠る宝を島の子どもたちに見つけてもらいたい」と期待を寄せる。

あまみんちゅメイン

DATA

タートルベイ醸造

  •  徳之島の特産品を使ったサイダーは夏にぴったり。酸味がワインに似てノンアルコールのシャンパンのような「キビススパークリング」(250ml税込み250円)。島に自生する超酸っぱい島みかんシマ・シーグニンの炭酸飲料「徳之島・シークワサースパークリング」(250ml税込み250円)、黄金生姜を使った「徳之島・ジンジャエール」(各250ml税込み250円)などは黒糖焼酎ともよく合う。
  • [住所]徳之島町亀津830
  • [電話]0997-83-1410
  • [営業時間]月~土曜午前10時~午後5時
  • [HP]http://www.turtle-bay.jp/
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