| お答えします |
福田 晴夫(ふくだ・はるお)さん
元鹿児島県立博物館長 |
−敵から身を守るため かな?−
「もしもし、うちの庭(にわ)に金をつくる虫がいます! 何でしょうか?」。これはずっと前、博物館(はくぶつかん)にかかってきた電話(でんわ)です。「ほう、長さは3センチくらい。近くにスミレがありますか。からだにトゲがあって、そのうち10個が金色(きんいろ)に光っているでしょう。それはチョウチョのサナギですよ」と答えました。
でも、裕介君は、ちゃんとこれがツマグロヒョウモンのサナギだってことを知っている。そして、この金色のトゲを不思議(ふしぎ)に思ったんだね。
花壇(かだん)でパンジーを食べているツマグロヒョウモンの幼虫(ようちゅう)にも、トゲはあるけど、金色はない。サナギになると金色が出てくる。でも、チョウが羽化したあとのサナギのからにも金色は残(のこ)っていないし、飛(と)びまわるチョウにもないね。いったい金色は、どうなったのだろう。
サナギを解剖(かいぼう)しても、金色の粉(こな)や液体(えきたい)は見つからない。おかしいなと電子顕微鏡(でんしけんびきょう)でみると、金色のところは薄(うす)いガラスのような膜(まく)が幾重(いくえ)にも重(かさ)なっているのがわかる。これに光(ひかり)があたると、金色や銀色(ぎんいろ)に輝(かがや)いてみえるんだ。シャボン玉みたいなものかな。
オオゴマダラというチョウのサナギはもっとすごくて、からだ全体(ぜんたい)が金色に見える。マダラチョウ類(るい)のサナギには、からだ全体が鏡(かがみ)のようになっていて、まわりの木の葉(は)や景色(けしき)を映(うつ)すものもある。
これで金色に見えるなぞはとけたと思うけど、問題(もんだい)はこれが何の役(やく)にたっているかだったね。チョウチョの気持(きも)ちになって考えてみようよ。
自然界(しぜんかい)には、チョウの幼虫(ようちゅう)やサナギを食べてしまう敵(てき)がたくさんいる。それでも幼虫のときは活発(かっぱつ)に動(うご)けるから、まあなんとか逃(に)げられる。でもサナギになると、逆(さか)さにぶら下がっているだけだから、敵が来たらせいぜい体をぶるぶるっと振(ふ)るわせるくらいしかできない。さあ、どうやって自分を守(まも)るか。
寒(さむ)さ暑(あつ)さ、大雪(おおゆき)大雨(おおあめ)、大風(おおかぜ)には、丈夫(じょうぶ)な皮(かわ)をもっているから、まあオーケイ。ダンゴムシやアリも恐(おそ)ろしい敵だが、もっとコワイのは鳥(とり)やトカゲに食べられること。
それには、見つからないように、枯(か)れ葉(は)や木の実(み)に似(に)たサナギになればいい。マダラチョウ類のサナギは金色、銀色でちっとも隠(かく)れることになっていないようだけど、実(じつ)はこのサナギには鳥の嫌(きら)いな毒(どく)があって、鳥たちは食べない。だからサナギは、目につくように派手(はで)な色をしているらしい。反対(はんたい)に、この金色や銀色で鏡(かがみ)のように周(まわ)りの木の葉などを映(うつ)して、隠(かく)れているのではないかとも考(かんが)えられる。
それにしても、ツマグロヒョウモンの金色は何だ。うまく隠れているつもりか。それとも毒(どく)のあるマダラチョウ類のサナギの真似(まね)をして「自分にも毒があるよ」と、敵(てき)をおどしているつもりか。実際(じっさい)は毒はないんだけどね。
ここまでくると、ぼくにも分からない。でも知りたいなあ。チョウに聞(き)いてみたい。
君(きみ)の祖先(そせん)はどのくらい昔(むかし)に、なぜそんな色を使うようになったの? いったい、どんな敵が一番こわかったの? 今もそれはコワイの? サナギはだまっているけど、野外(やがい)で観察(かんさつ)を続(つづ)けると、きっと答(こた)えが見つかるだろうよ。 |