薩摩には古来より伝わる「烏賊曳き」という漁法がある。
島津斉彬や西郷南洲も好んで錦江湾に出たといわれる。櫓船で餌木を引き流し、イカが抱きつくのを待つ。月明かりの下で黒じょか片手に朗吟などして釣りに興ずる様を夢想するだけで風雅である。
そのエギが問題なのだ。水温、水質、泳層など自然の条件と木肌の光沢、模様が合致しない限りは触手を伸ばさない。ましてや相手は生きもの、気分もあろうて好奇心を示さない。実に難しいのである。
それだけに釣師は腐心する。ひのき、楠、クサギなど小枝を丹念にエビ状に削る。寛永通宝などの古銭を調整オモリとして腹部分に埋め込む。焼きゴテで入念に紋様まで。出来上がったところで雲龍、天知洞だのと命名し墨書する。何の変哲もない木片に釣り心を託す訳だ。
形も美しい。民芸美術品だ。今やラメ色で飾られた布巻きが横行しているが、比較にならない。素朴で含蓄が深い。時が変わればイカの嗜好も変わるさ、と笑い飛ばすには余りにむなしい。単なる釣りと称しても古人の遊興心や粋さには脱帽あるのみだ。何を隠そう、愚生の親父が使っていたもの。形見でもあり大切に保存している。これ以上のこだわりがあるだろうや。
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●撮影協力 ゑびすや漁具
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住/鹿児島市堀江町11の11
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