薄暗くじめっとした空気、少
し饐えたようなにおいがする。
視点はとても高い。
これが私の一番古い記憶である。
ときどき独特のにおいを伴って
頭に浮かんでくる懐かしい光景。
その場所に合点がいったのは中
学生になるころだっただろうか。
私の父方の祖父は、大層お酒
が好きな人であった。筑後地方
の油問屋の大店で、手広く商売
をやっており、鹿児島からも菜
種油を船で買い付けていたそう
であるが、祖父の代にはもう見
る影もなかった。
昼間から碁を打ち、酒の肴を
つくっていた。そんな祖父は初孫
の私をかわいがってくれ、どこへ
も抱いて連れて行ったそうだ。
祖父の家を出てすぐに「井出
の橋」という橋があり、その橋を
渡ったところに古い木造の酒屋
があった。
絶壁の縁に置かれたような
印象や、しっとりと体に馴染む
感触は酒屋の角打ちのカウンタ
ーだったに違いない。私はその上
にひょいと乗せられ、敷皿の上に
置かれたガラスのコップに注がれ
る酒を見ていたのだろうか。
二十歳を過ぎるころから、あ
の饐えたようなにおいの記憶が
年々薄れてきてしまったことに一
抹の寂しさを感じている。
●撮影協力 のり子
住/鹿児島市名山町4-26
電/099(223)6346
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