今でも遠く霞がかかるように
思い出す場所があります。そこ
には深い芳醇なコーヒーの香り
と共に時代のついた木製家具の
懐かしい匂いがありました。店の
名前は西洋骨董GRAYS。
学校を卒業して東京に出る
前にしばらくの間アルバイトを
しようと考えていた僕は、偶然
通りかかったヨーロッパの街角を
切り取ったような佇まいの店に
導かれるように入ったのでした。
そこはさながら現実と非現実が
混ざり合う幽玄の別世界!
ジュモーのアンティークドール、ガレのランプやシャンデリアなどを眺
めているうちに、当時大好きだっ
た澁澤龍彦や森茉莉の小説の
登場人物になったような気分に
浸りました。僕は骨董のもつ繊
細な質感やそれらが醸す妖麗
な魅力に酔ったようになり、働
かせて欲しいと願い出ていました。
その店の女主人とは限りな
く近い感性の結びつきを感じ
まさに運命的な出会いだったと
思います。半年ほどの間、この店
では古いものが持つ独特の美し
さや新旧を問わず良いものを
見極める審美眼やセンス、四季
おりおりの花の生け方など、現
在僕の創造のベースになっている
様々なことを学びました。
いまでも遠く離れた東京やパ
リのカフェで芳醇なコーヒーを味
わうたびに思い出すのは、やは
りあの時の木製家具の懐かしい
匂いなのです。
●撮影協力 西洋骨董GRAYS
住/鹿児島市下荒田3-16-15
電/099(255)7495
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