僕がまだ幼かったころに住んで
いた地区には、その時代にしては
珍しく下町の風情が色濃く残っ
ていました。細い路地、魚売りの
声、駄菓子屋、のっぽ煙突の銭湯
…。なかでも鮮明に憶えているの
は、近くに住んでいた叔母の家の
前に置かれていた古い防火水槽。
叔母は今でも同じ場所でスト
アを営んでいますが、彼女の朗
らかな性格を慕って、当時から
店は町内の人々の憩いの場にな
っていました。町内会長の奥方の
辻おばちゃん、その昔日本舞踊
の踊り手だったというラーメン屋さんの大満ちゃん、幼なじみのあ
けみちゃんに、タカ坊(みなさん
お元気ですか?)。両親や弟、お
巡りさんまで個性豊かな人々が
入れ替わり立ち替わり訪れ、毎
日賑やかに過ごしていました。
特に夏は、日が暮れ始めると
店の前に縁台やパイプ椅子が置
かれ、風呂上がりの人達がうち
わ持参で涼んでいました。そし
てコンクリートで出来た高さ1メ
ートルほどの防火水槽には、常に
大きなスイカが3つほど冷水に
浮かんでいて、僕はそこに飛びこ
んで一緒にプカプカ浮いていたい
気持ちに駆られるのでした。
今でもみずみずしい真っ赤な
スイカの断面を見るたびに思い
出すのは、心優しい人々の笑顔
なのです。
●撮影協力 大山商店
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