1985年
10
月からの1年半、
瀬戸内町古仁屋で新婚時代を
過ごした。そのころ古仁屋は、名
瀬市に行くにも5つの狭く険し
い峠を越えねばならず、もちろ
んファーストフードもビデオレン
タルも無い。本屋も1軒だけ。
高校卒業後7年間を福岡で
過ごし、半年前まで天神、中洲
を闊歩していた私には、何もな
い退屈な場所に思えた。都会的
な「無い物」をねだっていた。
しかし幸運なことに、そう時
を置かず「豊かに有る物」に気
づいた。いつも潮香を含んだ軟らかな空気、心魂まで清めてく
れる碧い海、南海が育んだグロテ
スクだけど淡白で噛み応えのあ
る美味しい魚、そして不慣れな
よそ者に差し伸べてくれる多く
の暖かい手。夫が出張に行っても
古仁屋の新しい友人達が共に過
ごしてくれ、寂しいと思う暇も
なかった。
今、私が描く夢の舞台は、この
頃何度も訪れて有形無形の安
らぎをもらった加計呂麻島だ。
以前は海外に住むことが夢だっ
たが、今は世界中の友人たちと
加計呂麻に住みたいと思う。
田原製菓は、当時は地元の人
しか知らない小さい店。大ファン
になり「きい子ばあちゃんのかり
んとう」と呼んでいた。甘い物が
苦手な私を魅了したのは黒砂
糖の素朴な味と「豊かに有る物」
のハーモニーなのだろう。
●撮影協力 田原製菓
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