幼い頃、両親は自営業をして
いた。だから祖母と過ごす事の
多かった私。学校から帰ると、祖
母がおやつを作って待っていてく
れた。
「おかえり。いつもの所におや
つあるよ」。それは茶箪笥の上の
段。網状になった戸を開けると、
カステラやかりんとうなど、祖母
は日替わりのおやつを用意して
いた。そんな祖母と縁側に座っ
て幼いながらもお茶をすすり、
おやつを食べるのが一番の楽しみ
だった。
4年前、祖母は10年間の闘病
生活の末他界した。もっともっと
一緒にいたかったのに。1カ月後
、祖母の身の回りの物を整理す
る事になった。そう、あの茶箪笥
も…。
以前祖母から、「この茶箪笥
は嫁入り道具でリヤカーに載せ
て持って来たんだよ」と聞いた
事がある。だから、ざっと60年
は活躍したはずだ。
そのくたびれた茶箪笥はごみ
処理場行きの軽トラに載せられ
ていた。でもその時、何かが私を
引き止めた。本当に古い茶箪笥
で、周囲には「そんなのどうする
の?」などと言われたが、大事に
持ち帰りヤスリをかけ、色を塗
った。
そんな私にとって思い出深い
大切な茶箪笥が、今は経営する
温泉施設の顔となっている。その
施設の入り口、真正面に置かれ
た茶箪笥は持って帰った時とは
別人のようで、堂々とお客様を
出迎えている。
祖母は温泉施設の完成を待
たずして逝ってしまったけれど、
ずっと私の事を見守ってくれて
いるだろう。
●撮影協力 証古庵の田畠
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