時計 2020/10/08 04:30

「家族愛」あふれる映画を 互いを認め尊重し合うことが大事だ 

俳優 西田聖志郎
 「3000人もの男衆が命懸けで大綱を引き合う姿に心打たれた」。薩摩川内市を舞台にした30日先行公開の映画「大綱引の恋」では、頑固で不器用ながらも家族を愛する父親を演じる。プロデューサーとしても映画制作に奔走、映画化を決意した当時を振り返る。「3000人の一人一人に人生がある。その中の一人にスポットを当てようと思った。物語の大筋は祭りを見ながらほぼできていた」

 映画は、主人公・有馬武志(三浦貴大)と、韓国の昌寧郡(チャンニョングン)出身のヒロイン・ジヒョン(知英・ジヨン)との恋物語を軸に進む。2人を取り巻く家族や友人との日常を映し出し、ぶつかり合いながらも信頼関係が深まる様子が描かれる。「大きな事件は起きない“ごく普通”の家族の話。しかしさまざまな愛があふれている」と映画の魅力を語る。

 鹿児島市出身。俳優として数々のテレビドラマや舞台に出演するほか、鹿児島弁指導や映画制作にも携わってきた。2013年先行公開された映画「六月燈の三姉妹」でも、自ら出演すると同時にプロデューサーを務めた。鹿児島市の老舗和菓子店を舞台に、さまざまな事情を抱えた家族が絆を取り戻す姿を描いた作品。6カ国9都市の映画祭などに出品され、国内外に鹿児島の魅力をアピールした。

 「六月燈の三姉妹」「大綱引の恋」の両方とも故佐々部清監督が手掛けた。監督とは、家族愛を描きたいという根幹の思いが共通しており「話さずとも通じ合っていた」。訃報を聞いたときは「時間が止まったかのように感じ何も手につかなかった」。それでも「遺作となった『大綱引の恋』を一人でも多くの人に見てもらい、家族愛の大切さを感じてもらうことが弔いになる」と立ち上がった。

映画「大綱引の恋」の記者会見に臨む(左から)西田聖志郎、石野真子、比嘉愛未、知英、三浦貴大、松本若菜、升毅、中村優一、佐々部清監督=薩摩川内市のホテル
映画「大綱引の恋」の記者会見に臨む(左から)西田聖志郎、石野真子、比嘉愛未、知英、三浦貴大、松本若菜、升毅、中村優一、佐々部清監督=薩摩川内市のホテル
 今年は、コロナ禍で伝統の六月灯も川内大綱引も中止に。「映画で体験してもらうしかない。背負う役割が大きくなった」と話す。「大綱引の場面は大迫力。来年以降、全国や世界中の人が実際の祭りを見に来てほしい」と思いを込める。

 ラジオドラマなどの影響で、物心ついた頃には俳優を目指していた。一番のきっかけは幼稚園のお遊戯会。「練習と違うことを思いついてやってみたら保護者に大うけした。勘違いの始まりだった」と笑う。「才能は誰にも分からない。自分はできるという思い込みが大事。それが起点となって作り出されていくものが才能だ」

 コロナ禍にあって「命とは何かと考えさせられた。みんな窮屈で苦しい思いをしているのではないか」と語る。「答えの見えない暗闇に入ったとき、映画を見ることで前を向いて生きるヒントを見つけてほしい」と期待する。家族については「互いに認め、尊重し合うことが大事だ」とも。さらに「人を好きであり続けたいよね」と穏やかな笑顔で付け加えた。

☆☆☆
 にしだ・せいしろう 1955年、鹿児島市出身。本名は西田静志郎。幕末に活躍した歌人・八田知紀は高祖父にあたる。甲南高校卒業後、日本大学芸術学部演劇学科に入学し、81年NHKドラマ「海峡」で俳優デビューした。大河ドラマ「翔ぶが如く」(90年)、「篤姫」(2008年)などに出演。04年から演劇や映像作品の企画製作も手掛ける。09年から薩摩大使。