時計 2020/11/12 04:30

究極のその人らしさ追求 「『いい』と思える感性の枠を広げてみませんか」

しょうぶ学園 オットー&オラブ
 ダイナミックな音に空気が震える。障害者支援施設「しょうぶ学園」(鹿児島市)の利用者らでつくるバンド「otto(オットー)」のパフォーマンス。メンバーは躍るように自由に演奏する。音のズレは独特のグルーブ感となって聴く者を魅了。“超絶技巧”とはいかないが、音楽とは何か、そんなことを考えさせる根源的な音を響かせた。

パーカッショングループ「otto」のメンバー。福森伸統括施設長(中央)が指揮を務める=5日、しょうぶ学園
パーカッショングループ「otto」のメンバー。福森伸統括施設長(中央)が指揮を務める=5日、しょうぶ学園
 園内で5日に開催された約1年ぶりのライブ。「otto」は6曲を披露した。使うのはジャンベやボンボといった民族楽器がほとんど。学園の統括施設長で指揮を担う福森伸さんは「順番や強弱は一通り練習する。でもどう演奏するかは人それぞれ。そこで生まれたズレがいい」と語る。今年は新型コロナウイルスの影響で出演を予定していたイベントは相次ぎ中止に。練習すらできない日々が8カ月ほど続いた。それだけに、久しぶりの公演にメンバーの表情がはじけた。

 知的障害のある人と職員ら約20人で編成する「otto」は、打楽器を中心としたグループ。「得意を伸ばす」「やりたいことを実現する」との発想のもと、2001年に結成した。音がズレて「おっとっと」という感じから名付けた。職員約10人によるボイスグループ「orabu(オラブ)」の結成後は、音パフォーマンスバンド「otto&orabu」として活動。ただ、「orabu」は、飛まつ防止のため、活動休止が続く。

 「意思疎通と自己表現の難しさを感じる」。福森さんは障害のある人たちとの活動についてこう話す。当事者のやりたいことの実現を願うが、「やりたいこと」が何か、本人たちも分かっていないことが多いという。「障害はその人の個性であり人格。その人の考えを表現する方法をたまたま音楽や工芸に置き換えた」

 ステージ衣装も利用者の作品だ。こうした方向性や適性をどう見いだすのか。福森さんは「職員が、作品の中に常識を超えた面白さを発見し肯定することから始まる」と説明する。「自分たち職員がまず、利用者の生み出す隠れた美しさに気付く力が必要だ」と語る。

園内ライブで演奏する「otto」=5日、鹿児島市のしょうぶ学園
園内ライブで演奏する「otto」=5日、鹿児島市のしょうぶ学園
 学園では活動を通じ「究極のその人らしさ」を目指している。一方で、福森さんは、見る人が視点を変えることの大切さを問い掛ける。見方が変わることでただの大きな音がアートにもなるからだ。

 「最近はウイルスのような目に見えないもので不安になることが多い。でも、感情や音など目に見えないものには美しいものがたくさんある。一緒に探しましょう」と福森さんは促す。「人と比べるのではなく自分の感覚を大切にすること。そうして、少しずつ『いい』と思える感性の枠を広げてみませんか」

☆☆☆
 オットー・アンド・オラブ 2001年に「otto」、03年に「orabu」が結成。障害のある人や職員ら約30人で構成。音源はファッションブランド「ニコアンド」のテレビコマーシャルに二度起用された。