( 3/23 付 )

 遠くに見える人混みの中にいとしい人を探す。期待と不安が入り交じってどこか落ち着かない。そんな甘酸っぱい気持ちを、おととい東京ドームで味わった。

 待ち人は米大リーグ・マリナーズのイチロー選手である。今思えば、これが現役での見納めになるかもしれないとの予感があったのだろう。攻守交代のたびに満員のスタンドは総立ちになり、相手のヒットでもイチロー選手が捕球すれば歓声が耳をつんざいた。

 日米通算28年で積み上げた安打数は前人未到の4367本。打率に盗塁、そして守備と獲得したタイトルを挙げればきりがない。「打って走って守る」という野球の魅力を、これほど鮮やかに演じて見せた選手はいない。

 試合に備えて寝食の時間を守り、準備運動に時間をかけた。三振しても決してバットを粗末に扱わなかったのは小さな傷でも付くのを防ぐためだ。分単位、ミリ単位の努力を重ねて45歳まで球界を引っ張った。

 4000本安打を達成した際「8000回の悔しい思いがある」とアウトに終わった打席の境地を語った。実績が輝けば輝くほど陰影は深い。困難に挑み続けた姿は多くの人の人生を奮い立たせたに違いない。

 最後の打席も全力疾走で駆け抜け、「イチロー」コールを浴びながらグラウンドを去った。「後悔などあろうはずがありません」と会見で言い切った。ファンは存分に夢を見させてもらった。