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 実際は何の声もしないのに聞こえた気がした時に使う空耳という言葉は、もう一つ意味を持つ。「聞いたのに聞かないふり」だ。政府が空耳で済ませた感が強いのが、あの2000万円報告書である。

 だが金融庁金融審議会の力作、めくるとなかなか興味深い。総務省の調査データを基に、35~64歳の世帯主月収を10歳刻みで示すグラフがある。どの年齢層も、2014年はピークだった1994年の8割程度しかない。

 伸び悩む収入をどうにかせねば、老後に備えて貯蓄に回す余裕などない。各党とも、参院選の公約に最低賃金引き上げを盛り込んだ。「全国平均1000円に」「1500円を目指す」…。

 労働者の耳に優しい政策は、中小事業者の不安と表裏だ。薩摩川内市の上甑島で豆腐屋を営む山下賢太さんは言う。「最低賃金がしゃくし定規に全国一律で上がれば、営業利益を上げる努力が一層必要だ」

 安倍政権は雇用環境の改善など「アベノミクス」の成果を強調するが、地方の中小企業や労働者は幸せになったか。景気回復が実感できないまま、10月には消費税が上がる。

 古民家に手を入れた宿、中甑港の旧待合所を使うカフェも手がけ、U・Iターン者を含む10人以上の若者を雇ってきた山下さん。「地方が切り捨てられず、誰一人として取り残されない社会を」。30代、2児の父は、高齢化の進む小さな島で日々考えている。